東日本大震災の津波被災地で被災者が個別に住宅を再建する動きが広がった結果、既存市街地への集積が進む地域がある一方、広範囲への住宅拡散で街が低密 度化している例があることが、神戸大と名城大の共同調査で確認された。人口減少が進む被災自治体にとって低密度化は将来的な重い課題となるため、研究チー ムは今後の大規模災害に向けて市街地形成の誘導策などを検討する必要性を指摘している。
岩手、宮城両県の9市町を対象に、近藤民代神戸大大学院准教授と柄谷友香名城大大学院准教授が、被災者の自主再建が市街地形成に及ぼす影響を分析した。
被災地では、防災集団移転促進事業や大規模なかさ上げを伴う土地区画整理事業の遅れから、被災者が事業に参加せず新たな土地で住宅を再建する動きが加速している。震災後に9市町で着工された住宅など建物約2500棟の分布を特定し、市街地の変容を調べた。
違いが顕著なのは、陸前高田市と東松島市(地図)。東松島市は駅や商業施設の周辺など既存宅地に新たな建物が差し込まれているのに対し、中心部が壊滅的な被害を受けた陸前高田市は高台などに住宅が拡散し、スプロール化が進む。
過疎と少子高齢化が同時進行する被災地にとって、市街地の低密度化はインフラ整備や維持コストのさらなる増大に直結する。コミュニティー維持や近隣との交流が困難になる懸念もある。
近藤准教授は「早期の生活再建を目指す被災者のスピードに、行政サイドの対応が追い付いていない。今後、地域づくりの再構築を迫られる恐れがある」と指摘する。
民間賃貸住宅の少ない地方が被災した場合、住まいの選択肢は公営住宅などに限られる。南海トラフ巨大地震などの災害に備え、近藤准教授は「住宅を自力再建する被災者への支援強化を軸にした対策を整備し、市街地形成への誘導などを検討する必要がある」と話す。
[地図の見方]上段は陸前高田市、下段は東松島市。点線で囲われた部分は津波浸水区域。赤い点は震災後に着工が確認された新規の建物。東松島市は既存市街地に集中するのに対し、陸前高田市は浸水境界線付近に幅広く分布する(神戸大近藤研究室、名城大柄谷研究室提供)。