宮崎県内で最大震度6弱を観測した日向灘の地震で、同県延岡市の津波避難タワーに住民が入れず、一時混乱状態になっていたことが分かった。同市にも津波注意報が出ていたが、震度が自動解錠ボックスの作動基準に満たず、鍵が使えなかったためだ。タワーは普段施錠されているが、逃げ遅れにつながりかねず、市も対応を検討する。
進入口(中央)を蹴り破った時の様子を説明する甲斐善一区長=2024年8月14日午前10時50分、宮崎県延岡市長浜町3丁目、星乃勇介撮影
津波避難タワーは海岸線から約350メートル、標高約3メートルの同市長浜町3丁目の住宅街にある。鉄筋コンクリート造り2階建て、高さ10メートルで、440人が逃げ込める。周囲に高台がないことから、市が約1億円かけて2016年に設置した。
区長の甲斐善一さん(76)は8月8日の地震発生の瞬間、タワーの数軒先の自宅にいた。突然「満員電車で急ブレーキをかけられたような揺れ」に襲われた。玄関先の松の木が、見たこともないほど左右にしなっていた。すぐ津波注意報が流れた。「避難者が来るかもしれない」とタワーの様子を見に行った。
着いたのは揺れから数分後だったが、もう6、7人集まっていた。入り口が開かない。「鍵がない!」「誰が持っちょっと?」「何で開かんとか!」。子どももいた。みんな血相が変わっていた。
タワー南側の柱に自動解錠ボックスがあり、震度5弱以上で中の鍵が取り出せるが、延岡市の震度は最大4だった。揺れが規定値未満だったためボックスが開かなかったのだ。
そうした場合に備え、緊急用の進入口もある。板が張られ、市によるとケイ酸カルシウム製で厚さ6ミリ。「非常時に破って逃げる、マンションのベランダの仕切りと同じ」という。
板には「緊急用避難口」と書いてある。脇にも「緊急時にはここを破って侵入(進入)し門扉を開けて避難して下さい」と記し、人が蹴り破る様子を絵にした案内板も張ってある。だが、住民はパニック状態で、全く目に入っていない様子だった。
甲斐さんは自動解錠ボックスが開かないことを再度確認した上で、板を蹴り割った。しかしきれいには割れず、鋭利なギザギザが残った。「住民がケガをするといけない」と思い、それを1、2分かけて手で取ってから、中へ誘導した。
最終的に、タワーには20~30人が避難した。住民だけでなく、仕事でたまたま地区に来ていた業者もいた。下まで来たものの、足腰が悪くへたり込む夫婦もいた。
「そんな人たちや子どもたちに『蹴破って中へ入れ』は酷だし、壊してまで入るのをためらう人もいるだろう。常時開放していてもいいのでは」と甲斐さんは言う。
実は、同様の指摘は以前からある。だが「子どもが入って遊んでケガをする可能性もある」といった、防犯や安全上の理由で市は二の足を踏む。全国的に見ても、同じ理由で閉鎖している自治体は多い。
一方、自動解錠ボックスの作動基準を引き下げると、小さい地震でもしょっちゅう開いてしまうことになる。
ただ実際には、津波は揺れなくても起きる。市の第2次津波避難施設等整備計画の検討委員長を務めた九州医療科学大の三宮基裕教授(50)=建築計画学・福祉住環境=は「いざという時、素早く逃げ込むためには、常時開放して親しみのある場所にしておくことも重要なのではないか」と指摘している。
今回の件を受け、市危機管理課は「常時開放した場合のメリットとデメリットを整理したい」としている。(星乃勇介)