消防活動をしていないのに報酬や手当を受ける「幽霊消防団員」が各地で広がっている。消防団員は非常勤特別職の地方公務員。その活動実績は地方交付税の算定根拠になっている。団員の成り手不足が深刻化する中、活動需要があると装って予算を確保する苦肉の策とみられ、政府は実態調査に乗り出した。
毎日新聞は全国の「幽霊団員」の存在を把握しようと、人口10万人以上の264都市を対象に2018、19年度の活動についてアンケート調査した。11月末から12月20日まで実施し、251市から回答を得た(回答率95%)。
その結果、18、19年度の2年間にわたり活動履歴が残っていない団員が116自治体に計4776人おり、報酬の支払総額は計3億1427万円にのぼった。特に愛知県豊田市(1171人)、横浜市(890人)、山形市(236人)で多かった。中には子どもの見守りや祭りの警備など手当の支給対象外の活動をした団員も含まれるとみられるが、大半の消防団に活動の実態を把握できない「幽霊団員」がいることが分かった。アンケートでは、活動履歴のない団員は18年度に7799人、19年度には8967人いた。
幽霊団員化を防止する動きも出ており、福島県郡山市は10月、独自の調査によって1年以上活動がない「幽霊団員」が168人いることを確認。全員に退団を勧告することを決めた。
消防団員は1990年に100万人を割り込み、現在は約82万人。各地の自治体は団員確保を迫られており、「幽霊団員」を抱える理由について「団員の充足率を満たしていることにしないと自治体に注意されてしまう」との声も聞かれた。
団員の処遇は給料にあたる「報酬」と、消火活動や訓練などに出動した際の「手当」がある。消防庁の資料によると、年間報酬の平均額(地方交付税算入額)は3万6500円、出動手当の平均額は1回当たり7000円。地方税収を原資とする自治体が多いが、兵庫県尼崎市や愛知県一宮市など地方交付税で全額を賄う自治体もある。
毎日新聞は18年にも道府県庁所在地の45市を対象に15~16年度の活動状況について同様のアンケート調査を実施、活動実績のない団員が34市で計1548人おり、約7900万円が支払われていたことが判明した。今回は調査の対象を拡大して実施した。【高橋祐貴】
◇「見えない予算を生み出す幽霊を一掃すべき」
今回の調査で判明した「幽霊団員」を利用した不正受給の可能性がある総額は約3億円。106兆円規模の年間予算を組む国家財政に照らすと小さな額だ。だが、税金が原資である以上、一円たりともごまかしは許されない。国からの地方交付税は地方が真に必要とする費用を項目ごとに積み上げる基準財政需要額を基に算定する。「幽霊団員」を理由に国の予算を得る行為は税金のだまし取りと言え、明らかに脱法行為である。
「幽霊消防団」の存在は関係当局の間では古くから知られていた。長年にわたって放置してきた背景には、消防団が自民党の大きな票田という政治的な理由があり、閣僚経験者は「この問題だけは聖域。国会でも扱えなかった」と明かす。
近年は集中豪雨などの災害が多発化。それでも危機的な財政状況の下、消防署などの「公助」(常備消防)にかける予算は大きく増やせない。「共助」の担い手である消防団が果たす役割は今後さらに大きくなっていく。政府は団員の減少を深刻に捉えており、団員確保に全力を挙げる構えだ。だが、処遇改善や負担軽減策だけでは問題は解決しない。ブラックボックスのような消防団に流れるお金の流れを透明化することなしに、共助の担い手は集まらないだろう。
消防団の歴史は古い。江戸時代、八代将軍吉宗が江戸南町奉行の大岡越前守に命じ、町火消し「いろは四十八組」を設置させたことが始まりだ。越前守が持たせた「纏(まとい)」は今も団員の士気を高揚させる消防のシンボル。伝統ある消防団を「不正の温床」としないためにも、見えない予算を生み出す幽霊を一掃すべきだ。【三沢耕平】