11月5日、『2020ユーキャン新語・流行語大賞』のノミネート30語が発表された。コロナ禍に見舞われた時代状況を反映して、「3密(三つの密)」「ソーシャルディスタンス」「アベノマスク」「自粛警察」といったコロナ関連語が多数含まれていた。
かつては、芸人の一発ギャグや決めフレーズが流行すると、ここで取り上げられることも多かったのだが、最近はそういう単語がノミネートされることが少なくなっている。
今年、お笑い関連で入っていたのは「時を戻そう(ぺこぱ)」「まぁねぇ~(ぼる塾)」「フワちゃん」の3つのみ。これでもここ数年の中では多い方だ。
この3つの中でギャグやフレーズと言えそうなのは「時を戻そう」と「まぁねぇ~」の2つである。確かに、ぺこぱもぼる塾もテレビにたくさん出ていて売れっ子には違いないのだが、フレーズ自体には「流行語」という印象は薄い。
2020年のお笑い界が盛り上がっていなかったかというと、決してそんなことはない。コロナの影響でテレビの収録が減ったり、ライブや営業が軒並み中止になったりしているとはいえ、その中で新しく出てくる芸人も大勢いた。
昨年からの「第7世代ブーム」が続いていて若手芸人に勢いがある上に、ぺこぱ、すゑひろがりず、ミルクボーイ、かまいたちなど、昨年末の『M-1』で活躍した中堅芸人たちも順調に仕事を増やしている。
しかし、このお笑い界の活況が、新語・流行語大賞のノミネート語には十分に反映されていないように見える。なぜそんなことになっているのだろうか。
結論から言うと、ここ数年のうちに人々のお笑いの楽しみ方が変化したからだ。今から10~15年前には『エンタの神様』『爆笑レッドカーペット』といったネタ番組が流行っていて、キャッチーな決めフレーズを連呼するような芸人が続々と出てきていた。
彼らの多くは、短期間のうちに一世を風靡する活躍をしながらも、その後は人気が落ちていき、やがて「一発屋」の汚名を着せられるようになっていた。
あの時代には、人々は芸人を「キャラ」として消費していた。その芸人の衣装やネタやギャグをそのままの形で受け止めていた。
だが、今はそうではない。それを象徴するのが「ユーチューバー芸人」という新しい肩書を引っさげて絶賛活躍中のフワちゃんである。今回の新語・流行語大賞では「フワちゃん」という名前そのものがノミネートされた。フワちゃんには決まったギャグがない。フワちゃんという存在そのものが流行しているのだ。
フワちゃんに対してそれほど関心のない人は、彼女のことを単に「見た目が派手で明るく元気な女性タレント」というふうに見ているだろう。だが、フワちゃんを好きな人にとって、彼女はそういう存在だけにとどまらない。そのキャッチーな映像や衣装のセンス、忖度しない自由奔放な本音発言、大物の懐に入るコミュニケーション能力の高さなど、彼女の「人間」としての魅力が評価され、愛されている。
「チャラそうなのに真面目」というキャラクターで知られるようになったEXITも、現在では単にチャラいとか真面目だということではなく、2人の人柄やサービス精神などがファンに愛される要素になっている。
これはフワちゃんやEXITに限らず、芸人全体に見られる傾向だ。「キャラ」の表面をなぞるのではなく、素の「人間」としてその人がどういう人格なのかということが問われている。
この変化が起こっている理由の1つは、芸人側の発信力が上がっていることだ。今の時代、YouTubeやSNSなど、芸人が自分からファンに直接発信できるツールが豊富にある。そこでは作り込まれたネタやギャグよりも、本人の飾らない姿を見せることの方が求められている。
一昔前に、決めフレーズやギャグで有名になった芸人が一発屋として雑に消費されてきたのは、テレビ以外の発信手段がほとんどなかったからだ。今はテレビ以外で芸人が直接発信をすることができるし、テレビでもそういうところに焦点を合わせるような企画が増えてきた。
芸人のギャグが新語・流行語大賞にノミネートされなくなっているのは、芸人の実力や勢いが落ちているからではない。芸人を「流行語」という観点で評価すること自体が時代遅れになりつつあるのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)