猛暑に見舞われたこの夏、北海道沿岸の漁業に異変が起きている。
釧路ではサンマ漁船に大量のイワシがかかり、網走沖ではマスの定置網にブリが交じる。解禁間もない秋サケ漁の網にはクロマグロの姿も。海水温が高いことが背景にあるとみられ、各地の漁師らは困惑している。
◆「サンマはどこへ」
全国有数のサンマの水揚げ量を誇る釧路市の釧路港。サンマ漁の主力の棒受け網漁が8月に解禁されたが、流し網漁を含む同月の水揚げは27日現在、平年を大幅に下回る22トンにとどまる。
一方、8月中旬以降はマイワシが大量に水揚げされ、多い日には1日に30トンを超えた。漁協関係者は「こんなことは今までなかった」と嘆く。相場はサンマの約3分の1といい、28日早朝に釧路港に水揚げした岩手県大船渡市の50歳代の男性船長は「取れるのはマイワシばかり。サンマがいなければ、燃料代をかけて北海道まで来た意味がない」とこぼした。
漁業情報サービスセンターによると、道東周辺の海水温は平年より2度ほど高い21~22度で、マイワシは暖かい黒潮に乗って北上したとみられる。
一方、サンマが来ない理由ははっきりせず、東北区水産研究所は「原因は特定できないが、海水温の高さが影響しているのかもしれない」と推測する。
◆ブリ来遊
網走沖では8月中旬以降、マスの定置網にブリがかかるようになった。昨年まではこの時期にほとんど取れなかったが、今年の水揚げ量は28日現在で計約5トンに上る。
日本海区水産研究所によると、ブリの北上は稚内沖までとされるが、今年は宗谷海峡を回って来遊したとみられる。網走漁協の担当者は「水温が高い状態は、マスやサケには好ましくない。ブリが取れる状況は歓迎できない」と浮かない表情だ。
◆「当てが外れた」
道東沖には昨年、暖流を好むサバが回遊し、水揚げ量が9000トンという異例の豊漁となった。今季もサバを当て込み、昨季の3倍を超す20船団が名乗りを上げたが、魚群が確認できず、多くの船団は現在、東北の三陸沖で操業している。
昨年はサバの処理能力が追いつかず、水揚げの多くを青森・八戸港に奪われたため、今年は周到に準備を進めてきた北海道まき網漁業協会の関係者は「肩すかしを食らった」。
函館市漁協は、活イカの全国への発送開始を9月から10月に延期した。高水温の影響で、漁船のいけすに入れたスルメイカが輸送の途中に死んでしまうためという。
◆マグロが取れても…
道東では、異例のクロマグロの水揚げが相次いでいる。白糠漁港では、春サケの定置網漁(5~8月)で例年の10倍にあたる100匹余りのクロマグロが水揚げされ、8月下旬に始まった秋サケ漁でもクロマグロが確認された。白糠町の漁師は「小型のマグロが多く、サケが取れないと採算が合わない」と嘆く。
24日に秋サケの定置網漁が解禁された大樹町の大樹漁港でも、初日の水揚げでクロマグロが数匹交じっていた。
肝心の秋サケは今季、来遊量が過去10年で2番目に低い3793万5000匹と予測され、4年連続の不漁が懸念されている。
◆猛暑で海水温上昇
気象庁によると、北海道周辺の8月中旬の平均海面水温は19.5度で平年より1度高く、道東沖や日高沖では平年より3度以上高い場所があった。日本海や東シナ海では、現在の観測体制となった1985年以降で、8月中旬としては最高の海面水温を記録した。
海面水温が高くなったのは、太平洋高気圧に覆われて気温が高い状態が続いたため。気象庁によると、北海道周辺では9月20日頃まで、海面水温が平年と比べて「1度強高い状態」が続く見通しで、海の異変は9月も続く可能性がある。