記者の母校の学食が40年以上の歴史を閉じた。うどん170円、カレー260円…。安くておいしい青春の味。卒業して約20年。愛着があるのは立派な校舎より、3年間ほぼ毎日通った食堂だ。全国でも学食が姿を消していると聞く。事業者の経営悪化で学校寮の食事が突然停止するトラブルも起きた。どうしたら「持続可能な学食」が実現するのだろう。無料キャンペーンや看板メニュー、交流サイト(SNS)での発信など工夫を重ねる現場を訪ねた。 【写真】学食経営「利益ゼロ」も 0円となった所得金額を示して「経営努力だけではどうしようもない」と訴える、広島県内の高校の食堂の元経営者
一時しのぎでなく「食のインフラ」守る
午後0時半。昼休憩のチャイムが鳴り生徒が続々と食堂へ向かう。舟入高(中区)で今月2日に始まった「学食に行こうキャンペーン」。PTAが予算を組み、来年1月までクラスごとに1回分の食事を無料提供する。 初日は和風ハンバーグ定食でサラダ、みそ汁、白米付き。通常は450円だ。お弁当派の1年楠本紗英さん(15)は「温かいのがうれしい。栄養バランスもよくて今後はもっと学食に来たい」と頬張った。毎日使う1年瀬尾亮介さん(16)は「通学に2時間近くかかり弁当作りは負担。コンビニだと高いし、学食の有無は死活問題」と切実だ。 キャンペーンは利用者が急減したコロナ禍を機に、PTAが2021年に発案した。人気のパスタの日を増やし、韓国風唐揚げ「ヤンニョムチキン」をメニューに。ラーメンは白湯(パイタン)、豚骨、塩味と週替わりにした。 目指すのは「持続可能な食堂」だ。赤字を穴埋めするPTAもあるが、舟入高PTAの田村正彦会長(70)は「一時しのぎではなく『食のインフラ』を守るために魅力アップが大切」と、利用者を増やす必要性を語る。
弁当やスイーツ販売にも力
広島市立広島商業高(東区)もメニューの充実を図る。テイクアウトの丼物やたこ焼きなどを含めると計50種類。ボリュームもあり、パンやおにぎりはどれも100円前後。3個120円の唐揚げが名物で、おやつや夕食用に買う生徒も多いという。来校者や保護者も利用できる。松尾一俊教頭は「おいしいと評判の学食は生徒の自慢。利用率も高い」と話す。 美鈴が丘高(佐伯区)は今年、インスタグラムで学食のPRを始めた。生徒有志がアンケートを取り、希望するメニューも提案している。 呉の県立高で唯一学食が残る呉宮原高では、10年ほど前に業者が撤退しPTAが引き継いだ。元保護者たちがスタッフを担い、学食までの廊下で弁当やスイーツの販売にも力を入れている。多い時で100人が利用する。 広島県教委によると、全日制の県立高81校のうち食堂の使用許可を出しているのは24校。広島市立高は5校で営業している。公的な補助はなく、PTAが独自に事業者と契約するケースが多い。 ある高校のPTA役員は、学食の売り上げは1日平均3万円ほどと明かす。人件費や食材費を引くと利益はわずか。「行政の支援を考える時期にきている」と訴えた。