紙に引いた線を、上からプラスチックでゴシゴシこすった。本当にきれいに消えていく。消し跡も残らず、消しかすも出ない。
ラインマーカー「フリクションライン」(昨年11月発売)と、ボールペンの「フリクションボール」(今月発売)だ。フリクションとは摩擦のこと。摩擦熱でインクが反応して、色が消える。
■3種の成分
ペンの上端に、摩擦の大きなプラスチックが付いており、これでこする。ただ、熱が出さえすれば消せるから、消しゴムで強くこすっても消えるし、ドライヤーで熱風を当てれば、ページ全体の書き込みを一気に消せる。
夏の暑さや、直射日光に当たって消えてしまっては困る。といって、懸命にこすらないと消えないのでは、大変だ。「ほぼ65度で消える設定です」と、パイロットインキ第2開発部の柴橋裕部長。
普通のインクは、発色剤だけだが、このインクには、それに加えて「顕色剤」と「変色温度調整剤」が含まれる。
イラスト
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発色剤も普通とは異なり、顕色剤とペアになって初めて色が出るものが使われている。インクの温度が上がると、変色温度調整剤の分子が自由に動き回れるようになる。そしてこの分子が顕色剤のまわりに集まり、発色剤から引きはがす。その結果、色が消える。
だが、こすって摩擦熱を出すのをやめ、温度が下がったとたん、また顕色剤と発色剤がペアになって発色してしまっては、使いものにならない。千賀(せんが)邦行主査は「零下約10度以下まで冷やさなくては、再びペアになることはありません。そういう変色温度調整剤を選んであります」と説明する。
■秘密メモも
この「零下10度」にも意味がある。普通の寒さで発色することはない。一方で、万一、間違って消してしまっても、家庭の冷凍庫に入れれば復活可能だ。秘密の内容を書いて、いったん消しておき、必要なときにだけ再現する、といった使い方もできる。
柴橋さんは「一番苦労したのは、色の消失に65度、再現に零下10度と、温度差の大きな変色温度調整剤を見つけ出すことでした」と振り返る。
ビールが飲みごろに冷えたことを色で知らせるような、すでにあった調整剤や似た物質数十種を試した。だが十分な温度差がとれず、新たに数百の物質を合成し、ようやくお目当ての物質を見つけた。
どんな物質か。「それは秘密」(柴橋さん)だ。
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