東日本大震災の後、東北地方を中心に温泉の湯量が激減したり、温泉が突然湧き出したりするケースが相次いでいる。地震による地殻変動が原因とみられるが、専門家も「これほど広域的な異変は珍しい」と驚いている。本格的な夏の行楽シーズンになっても終息の気配はなく、関係者は気をもんでいる。
山形県大江町の柳川温泉では震災後、源泉から自噴する湯が10分の1以下の毎分約20リットルになり、温泉が営業できなくなった。
震災前は年間約9万人が訪れ、休日には日帰り入浴客で駐車場が満車になるほどにぎわったが、いまは客の姿はほとんど見られない。
町産業振興課は「柳川温泉は今が最もにぎわう時期だけに、残念だ」と嘆く。町は約6000万円をかけ近くで新たな源泉の掘削工事に着手。年内の営業再開を目指す。
北秋田市の杣(そま)温泉でも震災直後、源泉が自噴しなくなった。湯をくみ上げるポンプを設置して約2カ月後に浴場を再開した。秋田県によると、鹿角、大仙両市でも湯量が激減し、営業を休止した温泉がある。
一方、いわき市内郷地区では東日本大震災の余震とみられる地震が起きた4月11日、アパート床下から大量の温泉が湧き出た。
調査した産業技術総合研究所によると、湯の量は毎秒約3リットルで、温度は27度。お湯が止まる時期は不明で、1年以上かかる可能性もあるという。
市によると、この影響でアパート周辺の地盤が10~20センチ程度陥没した。市は「いつまで温水が出るか分からず、観光利用は難しい。陥没が悪化しないうちに早く収まってほしい」と困惑している。
大崎市の川渡温泉では震災後の1カ月間、お湯の量が3割以上増えたという浴場もある。
震災後の温泉異変は、震源から遠く離れた地域でも確認されている。
新潟県弥彦村の観音寺温泉は源泉が枯渇。神奈川県箱根町の箱根温泉や福井県大野市の九頭竜温泉は湯量が増え、水温も上昇した。
財団法人中央温泉研究所研究員の大塚晃弘さん(40)は「地震による地殻変動で地下水脈の流れが変わり、湯量や泉質の変化につながった可能性がある」と分析。「過去の大地震でも異変はあったが、これほど地域が広大で、長期間になることは珍しい。東日本大震災の規模の大きさを物語っている」と話す。