ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」に続け、とばかりに、漬け物の全国大会「T-1グランプリ2011」が始まった。日本人にとって、なくてはならないご飯のお供、漬け物。縁の下の力持ちが脚光を浴びた形だ。漬け物が盛んな東北を含む東日本ブロックの予選会に駆けつけた。(産経デジタル 野間健利)
会場となったららぽーとTOKYO-BAY(千葉県船橋市)には、香ばしいかおりが立ち込めていた。青森県から長野県まで東日本ブロックの1都15県から集まったレシピは100。このうち、書類審査を通過した個人の7作品、法人の11作品が会場のテーブル上に並べられた。
野菜のソムリエなど専門家3人と来場者50人が試食し、審査している。一般の買い物客も試食できるので、記者もそばにあったフキの漬け物を食べてみた。シャキシャキした歯ごたえで、意外に塩辛くない。「塩辛くしないほうがフキの香りが際立つでしょ」と出展者の主婦、佐藤孝子さん(60)が説明してくれた。
佐藤さんは秋田市からの参加。フキの漬け物は多いが、漬け込み方を工夫して、塩辛さを抑えたヘルシーな「蕗漬け」で書類審査を通った。仙台に住んでいた娘と孫が東日本大震災で被災、1カ月半、佐藤さん宅に避難した。「そのとき、娘も孫もこの『蕗漬け』をおいしいって食べてくれて」。佐藤さんは記者に勧めながら、そんな話をしてくれる。
そうこうするうち、買い物客が会場を埋め尽くし、すっかり食べ尽くされた漬け物も出てきた。白いご飯もみそ汁もないのに、こんなに漬け物に引きつけられる人がいるなんて、やはり日本人なのか。かつお節と一緒に燻した大根の漬け物を食べた東京都江戸川区の小学4年、田代まりんさん(10)も「かつおの味がしておいしかった」と笑顔を見せる。
専門家の審査員が味10点、材料5点、独創性5点、彩り5点満点で採点。そこに来場者審査員が一番好きな漬け物に投票した1票が1点として加わる。
さて、結果発表だ。グランプリに輝いたのは長野県下諏訪町の主婦、松沢アツ子さん(70)の創作鉄砲漬け「下諏訪の恵み あっちゃん漬け」。来年1月の全国大会にコマを進めた。芯をくり抜いたシマウリにショウガ、ミョウガ、ニンジン、青ジソの千切りを詰め、酒粕に4カ月も漬け込んだ自信作だ。松沢さんは「25年前に叔母から作り方を習った。当時は具にごぼうを使っていたが、彩りを意識してアレンジした」と喜びを語った。知人たちに好評で、年の瀬に自家製の野沢菜と一緒に贈ると喜ばれるという。
審査員特別賞は長野県下諏訪町の主婦、平林さつきさん(67)の「諏訪湖のかっぱ漬け」。ピーマンを漬け床に練りこみ、キュウリを漬けた。「ピーマンが苦手な中学生の孫に食べてもらいたくて」(平林さん)、このユニークな漬け物を考案したという。記者が食べた「蕗漬け」はミツカン賞を射止めた。全国大会に進む法人部門の金賞は、秋本食品(神奈川県)の「長ねぎの焦がしねぎ油漬け」だった。
「T-1グランプリ」は昨年、北海道限定で第1回を開催。2回目となる今回は、さらに地域振興を図ろうと、全国規模にした。東日本、中部、西日本など5ブロックに分け、それぞれの優秀作品が来年1月15日、東京タワーで開催される全国大会に出場、日本一を決める。総合プロデューサーのおちまさとさん(45)は「漬け物がある食卓は平和の象徴。震災もあったが、食卓から平和を取り戻したい」と話している。