東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島3県の沿岸自治体が、震災を上回る巨大地震の想定公表を受けて対策の練り直しを迫られている。昨年示された「最大級の津波」を想定した浸水域は震災の1・3倍に拡大。読売新聞の調査で、沿岸37市町村の役場本庁舎や消防署など災害対応拠点の4割に当たる42施設に浸水リスクがあることがわかった。震災を教訓に対策を進めてきた自治体では「この10年余りは何だったのか」と困惑が広がる。
■面積 震災の1・3倍想定
政府は、東北から北海道沖の日本海溝・千島海溝周辺を震源域とする、マグニチュード9級の地震による津波の浸水想定を2020年4月に公表。21年12月には、冬の深夜に発生するなど最悪の場合、死者が震災を上回る最大19万9000人との被害想定を出した。
これを受けて3県は昨年3~12月、独自に浸水・被害想定を公表。最大の津波高は岩手県宮古市の29・5メートルで、3県の浸水面積は震災の1・3倍の約630平方キロ・メートル、最大死者の合計は1万4249人となる。
この浸水想定区域について、読売新聞が1月、沿岸37市町村を調査したところ、市町村の役場本庁舎18か所(49%)、消防署15か所(38%)、警察署9か所(38%)が浸水域に含まれていた。分庁舎や交番など出先を含めると120か所に上る。
市町村や消防、警察の拠点施設が浸水すると、避難誘導や人命救助などに支障が出る。12年前の震災では、岩手県陸前高田市、大槌町、宮城県南三陸町、女川町の役場が津波で全壊した。
浸水リスクが判明した18の本庁舎のうち6か所は震災後に移転済みだった。
宮古市役所は津波で2階まで水につかり、18年に内陸部へ移転した。しかし、新たな想定で市内の浸水域は震災の2倍近い18・7平方キロ・メートルに拡大。新庁舎は最大2・92メートル浸水するとされたため、非常用発電設備に燃料を送るポンプを2階以上に移すことにした。山本正徳市長は「あくまで最悪の場合を考えて対応するが、まちづくりはどうすればいいのか」と困惑する。
岩手県釜石市は、新庁舎の建設予定地が3~5メートル浸水するとされ、執務室を2階以上に計画変更した。野田武則市長は「今回の想定でさらに復興のゴールが遠のいた」と嘆いた。
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震災から間もなく12年。被災地では復興とともに、次なる災害を見据えた備えにも目が向けられる。新たに浮上した課題に迫る。