女優でモデルの泉里香が人気漫画『ONE PIECE』のナミ役に扮したIndeedのCMが好評だ。泉のほか、ルフィ役に斎藤工、ウソップ役に千鳥・大悟、ゾロ役に池内博之、サンジ役に窪塚洋介を起用し、「再現度が高い」と、Twitter上で反響を呼んでいる。これまで人気漫画作品の実写化は、特段映画に見受けられてきたが、「設定と違う」などのネガティブなコメントが目立つことが多かった。だが、ことCMアプローチでの“漫画実写化”は、過去を振り返ってみても、概ね好意的に捉えられているようだ。
【写真】ネットでも評判が高かった泉里香の「ONE PIECE」ナミ
■「よいパートナーに出会えた」原作者も満足するクリエイティブ
まず、実写化にあたって賛否が分かれる要因のひとつとなる“ビジュアル”の面だが、Indeed『ONE
PIECE』CMにおいては、海外から豪華な制作陣を向かえた。アメリカの人気ドラマ『プリズン・ブレイク』のプロデューサーであるマーティ・アデルスタイン氏が指揮を執り、同氏が率いる「TOMORROW
STUDIOS」が担当。その完成度の高さには、原作者の尾田栄一郎氏も、「紆余(うよ)曲折あり、よいパートナーに出会えた」と満足げなコメントを残している。
さらに最近の実写化CM例を挙げていこう。昨年放送されていたロート製薬のボディケアブランド『デ・オウ』では、俳優・伊藤英明が『北斗の拳』のケンシロウを演じた。鍛え上げた身体と原作よろしく“濃い顔”の再現度が評判に。『北斗の拳』自体は1995年にアメリカで実写映画化されているものの大ヒットとは言い難く、日本における実写化はこのCMが初。作品の世界観を忠実に再現した出来映えに、原作者の原哲夫氏も「世界観をよく理解してくれている」と賞賛。視聴者ともども納得させるクリエイティブとなった。
■視聴者も「短時間コンテンツだから」とディティールを気にしない
“ビジュアル”に関しては、映画でも作り込むことはできる。では“ストーリー設定”の面ではどうだろうか。冒頭にも記載したが、漫画実写化において視聴者から寄せられる厳しいコメントの大抵が「原作設定を逸脱している」といった内容のもの。事実、2011年に製作されたトヨタ『ドラえもん』CMでは、妻夫木聡演じる野比のび太とその同級生たちが30歳になったという設定で、ドラえもんにはフランス人俳優のジャン・レノを配役。これには「ふざけている」「原作をリスペクトしていないのでは」といった意見があった。
だが、それでもこうした“攻めた”施策ができるのも、CMが15秒、長くて30秒という短時間コンテンツならではとも言え、ドラえもんCMには好感の声も多かった。見せられる時間が決まっており、ストーリーを細かく描く必要はない上、視聴者も「あくまでCMだから」と、寛容な見方ができる。昨年からスタートしたダイハツの軽自動車『ミラ トコット』のCMも同様に、女優・吉岡里帆が『ちびまる子ちゃん』主人公・まる子役に扮し、原作では9歳の小学生だったのを、22歳の“おとなまる子”へと設定変更。それでも、CM内では、まる子の抜けた性格を損なうことなく演出し、好感度1位を獲得するなど(7月度業類別「自動車」部門、CM総合研究所調べ)、現在もシリーズ化されている。
外国人が『ドラえもん』を演じる、キャラクターの年齢設定を変更するなど、CMコンテンツの特性を活かした大胆なアレンジは、実写化に必ず巻き起こる「反感」がありつつも、面白がってくれる「共感」の意見も入り混じり、結果世間に強い印象を残す“バズ”が生まれる。
■CMアプローチでの「漫画実写化」はリスク少なく話題性高い最良の選択肢
近年のテレビ視聴率の低迷もあり、メディアが多様化した今、“国民的”なコンテンツが減っているのもまた事実。そうした中、先で挙げた原作漫画はすでに認知度が高く、キャラクターのデザインも色使いや形体がポップなものが多い。CM
制作側にしてもモチーフにしやすいといった面はある。
また、時代の旬の俳優を起用すれば、アレンジ次第によっては作品やキャラクター、そして訴求商材の価値を高めることができるため、リスクに比べてリターンのほうが多い。今後は、「あの人気キャラが大人になったら?」「もしあの有名俳優がキャラを演じたら?」といった既存の手法以外にも、実写化CMがどんなアレンジをしてくるのか。過剰なまでの“拡大解釈”には一抹の不安を感じつつも、楽しみにしておきたい。