無人店舗元年! 2021年にはどのような店舗がオープンしたのか?

2021年に盛り上がったビジネスの一つに「無人店舗」が挙げられるだろう。コロナ禍で対面接客が減らせたり、人件費削減につながったりなど多くの利点があり、DX文脈でも注目を集めていたように感じる。コンビニ、アパレル、カフェなどさまざまな業界で無人店舗の導入が進んだ。

 筆者は今年、コンビニ、アパレル、家具業界の無人店舗を取材した。それぞれどういう特徴があるのか振り返っていきたい。

ガソリンスタンドに「超小型無人コンビニ」誕生

 太陽鉱油は9月、千葉県の太陽鉱油 千葉新港サービスステーション(以下、SS)の敷地内に「超小型無人コンビニ」をオープンさせた。目を引く赤い外観に「無人決済店舗」と文字がプリントされている。広さはわずか7平米で、自販機6機分ほどの大きさだ。SSの敷地内に設置された「超小型無人コンビニ」

 当SSの特徴は、大型トラックが多く立ち寄る点だ。駐車できるスペースが限られるため、近隣のコンビニや飲食店に立ち寄ることが難しいトラックドライバーの飲食需要を取り込む狙いで設置された。

 店内には、約170のアイテムが並ぶ。食品7~8割、その他タオルなどの日用品が2~3割というラインアップだ。決済は交通系ICカード、クレジットカード、現金に対応する。システムは、ファミリーマートの無人店舗に技術・ノウハウを提供している企業が展開するものが採用されている。その他、8台のカメラとセンサーが連携し、万引きを防止したり、会計をしないと退店できないようにバーが設置されていたりなどの防犯対策も徹底されていた。店内はどうなっているのか?

 お店はコンパクトでキャパシティは5人ほど。ドライバーの飲食需要を満たすだけなら、わざわざコンビニの形態にしなくても、パンや軽食が変える「コンビニ自販機」を数台置いたほうがコストが抑えられるのでは? という疑問が出てくる。

 太陽鉱油は、「コンビニ自販機は場所貸しビジネスになってしまう」と理由を説明している。コンビニ自販機はセブン-イレブンやファミマなど母体となる店があり、その出先という位置付けになるという。場所貸しでは、大きな利益は見込めないだけでなく、在庫リスクなどの課題が生まれてしまうのだ。コンビニ自販機はなぜだめ?

 ドライバーニーズの高い商品などについてデータをためていくことで、より効率的な店舗運営や新たな収益源の確立にもつながっていく。

オープン初月で黒字化を達成した「古着店」

 5つの秘密が隠された「秘密のさくらちゃん」という名の古着店がある。20年1月に東京都の武蔵村山で1号店をオープンした。現在は東京都内、埼玉県内と岩手県内に合計5店舗を展開している。コロナ禍での開業にもかかわらず、全店でオープン初月の黒字化を達成している。

 5つの秘密とは「無人店舗」「さくらちゃん」「カメラ付きモニター」「万引き防止カメラ」「洋服の大量廃棄問題の解決」だ。新所沢店の秘密のさくらちゃん

 「無人店舗」「万引き防止カメラ」はイメージがつくだろう。その他の3つの秘密を見ていこう。まず、さくらちゃんとは誰なのだろうか? 答えは店内にいる「マネキン」だ。お店は24時間無人で営業しているため、人がいない時間帯もある。人がいないさびしさをカモフラージュする目的で設置された。しかし、意外にもさくらちゃんが着用する古着が人気で買い求める客も多いらしく、”売れっ子店員”だという。売れっ子店員のさくらちゃん

 「カメラ付きモニター」は会計時に役に立つ。購入商品が決まったら、モニターの前に立ち、スピーカーに向かって話しかける。そうすると、モニターに店員が映し出され、会計を手伝ってくれる仕組みだ。客がモニター越しに話しかけてきたときのみ応答すればいいため、1人が同時に複数店舗の対応をしているという。24時間稼働し続ける必要はあるものの、他店舗オーナーと持ち回りでシフトを組み、対応している。カメラ付きモニター

 最後の秘密はアパレル業界が抱える課題である「大量廃棄問題」だ。秘密のさくらちゃんでは、一部店舗に古着の回収ボックスを設けており、客に不要になった服、カバンや靴などを持ってきてもらうようお願いしている。回収ボックスには1店舗だけで週に200キログラムほどの古着が集まる。まだ着られるものは店頭で販売し、その他は海外に送るなど積極的にリユースに取り組んでいる。古着の回収ボックスを設置している(画像:ママハイ提供)

 秘密のさくらちゃんを運営するのは3人の子どもを持つ母親が立ち上げたママハイ(東京都中野区)だ。子育てと仕事の両立が難しく、一時は働くことを諦めていたが、無人店舗として展開することで、子どもとの時間も確保しつつ、仕事ができる状態を作り上げた。

 18年に発表された内閣府男女共同参画局の資料によると、出産前有職者率72.2%のうち第1子の出産を機に離職する女性は約半数に上るという。日本が抱える大きな課題を無人店舗が解決する可能性を示した事例としても見ることができるだろう。

無人の家電店では、何が売っているのか?

 無人の家電店「ゴジユウニ」があるのは東京都大田区の蒲田だ。木材が使われたスタイリッシュな外観で、一見家電店には見えないものの、店内には複数種類の家電が置かれている。東京・蒲田にある無人家電店「ゴジユウニ」

 主には、電子レンジ、冷蔵庫(60~140リットル)、洗濯機(3.8~7キログラム)、テレビ(24~32インチ)の4種類。取材時の価格は、電子レンジが5500円、冷蔵庫と洗濯機が1万1000円、テレビが1万6500円と製品ごとに統一されていた。これらの白物家電だけでなく、取材時にはドライヤーが660円で販売されていた。

 同店のビジネスモデルはシンプルで、個人やコロナ禍で廃業した宿泊施設、買取専任の事業者から買い取った家電を販売している。売れ行きは好調で、オープン当初は月に1回程度と予測していた製品の搬入も取材時は週2で対応しないと間に合わない状態だという。電子レンジに冷蔵庫など白物家電が並ぶ

 そんなに好調なら「冷蔵庫や洗濯機以外にも美容家電など売れそうな家電を置けばいいのに」と思うかもしれない。しかし、ラインアップを増やせない理由がある。「説明不要な家電しか置けない」のだ。無人店舗のため、最新の美容家電やユニークな製品を置いても使い方を説明する店員がおらず、売り上げにつながらないという考えだ。

 その他にも「家電の買い替え頻度ってそこまで高くないのでは?」という疑問も当然生まれる。「蒲田」という土地柄が解決してくれる。蒲田駅は20年の乗降客数ランキングで「恵比寿」「吉祥寺」などの東京の人気駅を抑え19位にランクインしている。また、駅周辺は商業施設や飲食店が充実していることに加え、大学や大学病院も存在する。新生活を始める大学生や単身赴任のビジネスパーソン、飲食業を営む人など白物家電を必要とする潜在ターゲットが多く暮らす街なのだ。蒲田という土地柄が関係している(画像:ゲッティイメージズより)

 ラインアップの少なさなどの課題は見られるものの、月の平均売上は40万~50万円で、同社が運営する有人のリサイクルショップと比較して、かなり効率的な経営ができているという。防犯対策も、店内外合わせて7つのカメラを取り付けることで対応している。

 家電は決して安い買い物ではない。「製品情報やスペックをしっかりと理解し、納得してから購入したい」というニーズがあるモノを、「無人販売」の形態に当てはめる意外性が新しいビジネスを生み出した。


 

 上記以外にも「本屋」「果物店」「ギョーザ店」「サラダ店」などさまざまな無人店舗がオープンしている。無人店舗の共通点はコストを最小限にし、小規模なスタートでも利益が生まれやすい仕組みを構築できることだと感じる。そうすることで、事業として安定した成長が期待できる。

 新型コロナウイルス感染拡大は、外出自粛、消費抑制など多くの弊害を引き起こした。一方で、無人店舗展開には追い風となった。人手不足の解消や人件費の削減、消費者の購買データをマーケティングに活用するなど無人店舗多くの可能性を秘めている。22年も多くの業界で生まれると期待したい。

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