無印良品、“営業利益5割減”の衝撃… ライバル台頭で迫られるブランドイメージ転換

無印良品を展開する良品計画(東京都) の株価は、年始から15%以上の下落を見せた。昨夏からはローソンでの取り扱いがはじまり、身近なブランドへの転換を進める同社の試みを取材した。

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 大幅続落が続いた良品計画。1月6日の「2023年8月期 第1四半期決算(2022年9月1日〜同年11月30日)」で明らかにされた、前年同期比54.9%減の営業利益(50億2,100万円)が要因とされる。

 良品計画は決算報告でその理由を〈(※11.4%増の1,369億4,800万円だった)営業収益は、国内及び中国大陸における既存店の売上が苦戦するなか、新規出店に伴う店舗数の増加により、増収となったものの、原材料の高騰、急激な円安に伴う仕入れ価格の上昇により、営業総利益が伸び悩んだことに加え、販管費も増加し、営業利益は減益となりました〉としている。

 もっとも物価上昇などに伴うコスト増に見舞われたのは小売業であればどこでも同じはず。2022年の小売業株を比較してみると、ファーストリテイリングやしまむらといった銘柄は10%以上株価が上昇したのに対し、良品計画は10%以上下落しているというレポートもある(参考:「DIAMOND Chain Store」23年1月4日配信「2022年、株価が10%以上上昇/下落した小売業と2023年に注目すべき3つのテーマとは」)。

 なぜ、無印良品は苦戦しているのだろうか。

300円ダイソーという脅威

 良品計画は現在、2024年8月期までの中期経営計画 で二つの目標を掲げている。簡単にいってしまうと「日用品や消耗品への注力」と「地域密着」だ。ここからはこれらを体現していると考えられる無印良品の新店舗を、マーケティングアナリストの渡辺広明氏と分析してみたい。

 まず一店目は昨年9月30日にJR三鷹駅に出店した「無印良品500」である。500円以下の商品を中心に揃えた店舗で、第一号店のこの店舗を皮切りに、2023年2月末までに都心部中心に27店舗、その後年間20店舗のペースで出店を計画しているという。

 無印良品のブランドイメージといえば「高品質」だけど「ちょっとお高い」。無印良品500では、これを覆すような無低価格帯の菓子やレトルト食品、文房具が充実している。〈より地域に密着し、「月に1回を週に1回の頻度で足を運びたくなるようなお店づくり」を目指〉すとのコンセプトで〈コンビニに近い業態〉との位置づけだという(それぞれ「無印良品500エビスタ西宮」公式HP紹介、22年9月30日WWDJAPAN配信記事「『無印良品』500円以下の日用品の新業態 長期的に2000店舗めざす」より)。

 渡辺氏は、

「売れ筋商品として店内のポップで紹介されているのも、税込150円の『泡立てボール』や390円の『スポンジホルダー』など、従来の無印良品とはちょっと異なりますね」

 として、ライバルの存在を挙げる。

「高価格帯から低価格帯へのコンセプトを掲げたのと真逆の動きとして、ダイソーの新業態『スタンダードプロダクツ』があります。こちらはいわば100円ショップの高級路線。300円をメイン価格帯に据えた店で、現在、全国に約40店舗を展開しています。買い物をしたことがある方なら分かると思いますが、『スタンダード〜』で扱われる商品は、とにかく無印とソックリなんです。『これなら“300円ダイソーでいいや”』となる消費者の動きは簡単に予想できます。この脅威に対抗する手段として“500円無印”に踏み切った背景があるのでは」

 その比較は21年3月31日記事「無印良品ソックリと話題の渋谷『300円ダイソー』 商品開発のプロはどう評価するか」でも取り上げたが、商品の見た目は無印良品の得意とするシンプルなそれと酷似している。SNSには〈無印良品のジェネリック〉なんて指摘もあるほどだ。

“ブランド神話”は限界に

 価格とは別の切り口で「日用品や消耗品への注力」と「地域密着」を体現しようとしているのが、昨年11月17日に東京・板橋区にオープンした「無印良品板橋南町22」だ。関東最大の路面店を謳う大型店舗ながら、最寄りの駅から徒歩10分かかるという、ちょっと不便な立地にある。

 ただしそれをあえて狙っているフシもあり、店舗にはスーパーマーケットのマルエツとドラッグストアのどらっぐぱぱすも併設。駅や商業地から離れた住宅地に出店することで〈お客様の生活に近い存在として役に立ちたい〉という狙いがある(店舗紹介より)。もっとも全226台の巨大な駐車場も備えているので、必ずしも近隣の地域客だけを対象としたわけでもなさそうだ。

 四階建ての店舗には食品から衣服、家具など幅広いカテゴリーの商品が揃っている。「500円無印」では扱いが少なかった衣服や家具に関しては「2023年8月期 第1四半期決算」でも〈国内での過剰は、売上が厳しいファニチャー、ファブリックス〉と触れられているが、

「低価格帯の日用品ではスタンダードプロダクツというライバルがいましたが、衣服ジャンルでもかねてよりのユニクロというライバルがいたところへ、ワークマンや近頃では中国のネット通販のSHEINも現れた。家具ではノンブランドながら無印とテイストが似たネットショップが拡充してきたほか、近年ニトリやイケアというライバルも現れました。これらの店は都市部にも店舗を出店しはじめていますから、無印良品と比較される機会も増えてきています」(渡辺氏)

 とはいえ、デザインが似ているとされるスタンダードプロダクツはさておき、ニトリやイケアの商品は“ちょっと高いけれど質が良い”無印良品とは方向性が異なり、同じ土俵に上がらないのでは、という意見もあるかもしれない。

「逆にいえば、そこに価値を見出し無印は特別だと思える顧客だけが今の無印良品を支えているともいえます。1980年に西友のPB(プライベートブランド)からスタートした無印良品は、そうしたブランドイメージに支えられて今日まで続いてきたわけです。いってしまえば、ブランドの付加価値ゆえの値段を設定して利益を得るビジネスモデルでした。しかし、自ら低価格帯の商品にシフトしていることからも分かるとおり、今はそうした“ブランド神話”は限界にきています。中国や東南アジアでは今も売上が好調なところを見ると、ひょっとするとこれから伸びていく国とは相性が良いのかもしれませんが、少なくとも今後の日本で戦っていくのは茨の道でしょうね」

 従来のブランドイメージという点では、「500円無印」そして“コンビニで手軽に買える”ローソンでの展開は、従来のイメージからすれば意外な戦略かもしれない。過去には無印良品がファミリーマートと提携していたことがあったが、無印良品は三菱商事と資本提携を行いローソンは三菱傘下ということもあり、ローソンと商品を共同開発する方針など、ファミマ時代とは力の入れ方がちがう。

 ローソン導入によって「化粧品の(※ローソン店舗での)売上高が導入前と比較し平均で約5割増加」(22年12月30日付「食品新聞」)という成果がある一方で、それを伝える記事のコメント欄には〈ショッピングモールで買うから、価値あるのに〉〈無印のあの空間で買うからいいんだよ〉と従来のファンと思しき声が寄せられているのは象徴的だ。

 現在の良品計画の低迷は、こうしたブランドの転換期ゆえともいえるだろうか。

渡辺氏が考える無印良品の武器は…

 無印良品の今後の鍵となりそうなのは「無印良品板橋南町22」でも取り扱いが豊富な「食」だと渡辺氏は指摘する。同店の2階には無印おなじみのレトルト食品や菓子がずらりと並ぶほか、アイススタンドとブレンドティー工房、食材量り売りのスペースが大きく展開されている。

「無印の食ジャンルは、種類が豊富かつユニークなものが多い。たとえばレトルトカレーは60種類もラインナップがあって、ビーフカレーから『コザンブ』なんて聞いたことのないようなカレーがあります。これをわざわざ買って帰って家で食べようとはならない人でも、店内で食べられるとしたらどうでしょう。軽減税率の問題はさておき、冷凍食品も含めた豊富な食品ラインナップを店内で楽しめるようにし、それを集客の柱にしてはどうかと感じました。食堂併設のイケアやニトリのファミレス形態(※ニトリダイニング)の先行例はありますが、食では無印良品に一日の長があるように思います。『板橋南町22』ではイートスペースもありますが、現状、きちんとした食事として用意されているのは店舗限定のてりやきバーガー(780円)だけですから、活かせないものでしょうか」

 大型家具や食品などが対象となった1月13日につづき、2月3日には生活雑貨の値上げも予定されている無印良品。日本を代表する小売ブランドの今後はいかに。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。近著に『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(馬渕磨理子氏と共著、フォレスト出版)がある。

デイリー新潮編集部

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