無印良品で”雑貨よりカレー”が売れるワケ

無印良品」で最も売れるアイテムはなにか。それはレトルトカレーの「バターチキン」だ。食に詳しいライターの上島寿子さんは「この数年、スパイスを本格的に使ったレトルトカレーが売り上げを伸ばしている。その火付け役が無印良品。35種類のカレーは、レトルトとは思えない本格的な味わいだ」という。食の専門誌「dancyu」も注目する「無印良品のカレー」のとんでもないこだわりとは――。

■無印良品の全アイテム中、一番売れるのは「バターチキン」

これまで日本のカレーは「ルウ」でつくるものが主流だったが、ここにきて温めるだけで食べられる「レトルト」のカレーが勢いを増している。

マーケティングリサーチ会社「インテージ」の調査によると、カレールウの購入額はここ数年減少傾向にあり直近の2017年は456億円だった。これに対して、レトルトカレーはじわりじわりと数字を伸ばし、ついにカレールウを超える461億円をマークしたのである。

背景としては、単身世帯や高齢世帯などでの個食化の加速や、共働き世帯の増加に伴って家事の時短に貢献する簡便性が見直されたことなどが考えられるが、もう一つ、大きな要因として挙げられるのが「中身の多様化」だ。

昨今のレトルトカレーは、欧風カレー、タイカレー、ご当地カレーなど実にバラエティー豊か。なかでも、ここ数年は、スパイスを本格的に使ったインド式のレトルトカレーの躍進が目覚ましい。

雑誌「dancyu」(9月号)の特集「スパイスカレー 新・国民食宣言」では、この動きにあわせて、ブームの火つけ役と言われる「無印良品」を取材した。今回、その取材内容の一部をご紹介したい。

同社のカレーは全33種類(8月10日現在)がそろい、そのうちインド系のカレーは16種類を占めている。良品計画 宣伝販促課の有山美恵さんは「35種類それぞれにファンがいますが、売れ行きでいえば『バターチキン』がダントツですね」と話す。

「バターチキン」は、トマトのうま味とカシューナッツのコクを生かしたまろやかでリッチな“北インドのカレー”。無印良品では衣類・雑貨、生活雑貨などの多角的な商品展開をしているが、驚くべきことに全アイテムの中で、昨年、最も売れた(販売数)のが、この「バターチキン」だった。販売総数は約250万個に及び、2位のお菓子「ホワイトチョコがけイチゴ」を70万個近く引き離しての堂々トップだ。

2017年無印良品売り上げランキングトップ10
1位「素材を生かしたカレー バターチキン」(250万個)
2位「不揃い ホワイトチョコがけいちご」(186万個)
3位「さらさら描けるゲルボールペンノック式0.5ミリ 黒」(152万個)
4位「ゲルインキボールペン0.38ミリ黒」(122万個)
5位「素材を味わう スティック切れ端干しいも75g」(118万個)
6位「生成カットコットン(新)180枚入・約60×50mm」(117万個)
7位「化粧水・敏感肌用・さっぱりタイプ200ml」(116万個)
8位「不揃い 宇治抹茶チョコがけいちご50g』」(114万個)
9位「ゲルインキボールペン0.5ミリ黒」(112万個)
10位「化粧水・敏感肌用・高保湿タイプ(大容量)400ml」(110万個)
※集計期間:2017年1月~12月中旬。数値は売り上げ個数

■なぜ無印良品のレトルトカレーは人気なのか?

今年に入ってからも「バターチキン」をはじめとするレトルトカレーの売れ行きは好調で、直営既存店の売上高は前年比106.5%(2018年3月~7月)。レトルト食品全体の売り上げの約6割をレトルトカレーが占めている。同社は営業収益、経常利益ともに右肩上がりの快進撃を続けているが、その一翼を担うのがレトルトカレーだとも言われるほどだ。

では、なぜ、無印良品のレトルトカレーはここまで人気なのだろう。

そもそも同社がレトルトカレーの販売を始めたのは1990年代後半。当初はごくごく一般的なレトルトカレーで、ほんの数アイテムしかなかったという。

アイテム数を増やすべく、インドカレーシリーズをスタートさせたのは2006年のこと。キーマとチャナ(ひよこ豆)がまず売り出され、王者「バターチキン」の登場はその3年後だ。「当初からものすごくよく売れました」と有山さんが言うように、この好調がレトルトカレーに本腰を入れるきっかけになったのだろう。

■商品開発のためインドで苛酷なカレーの食べ歩き

ターニングポイントは2012年だ。

この年から化学調味料、合成着色料、香料の使用を取りやめて、スパイスや素材の香りと味わいを最大限に活かす方向に切り替えた。そして、このときに加えたコンセプトが、「現地に学ぶ」。開発担当者はインドに赴き、味はもとより現地の空気感まで体感したうえで商品開発をする“本場主義”に舵を切った。以来、毎年、インド出張の成果として新商品を投入。多彩な品ぞろえは現地で学んだ成果なのだ。

もちろん、一口に本場の味といっても、伝わる料理はインド各地でさまざま。赴く地域は毎年のカレー開発のテーマに沿って決め、総勢10人ほどで食べ歩く。そう聞くとなんだか楽しそうだが、「おいしいですが、かなり過酷な旅です」と苦笑するのは、同社食品部でレトルトカレーの開発にあたる遠藤優子さんだ。

たとえば、遠藤さんが初参加した昨年10月のインド出張のテーマは「辛いカレー」。商品に辛さを楽しめるカレーが少ないことから掲げられた課題だ。巡ったのは、辛いカレーが多いと言われるインド北西部のニューデリーとアムリトサル。正味5日間の行程で食べ歩いたのはなんと14軒にも達する。

「ホテルのレストランから、地元の食堂まで幅広く回りました。移動のない日は1日3食どころか4食目までひたすらカレー。1軒あたり6~7種類を頼むので、1日20種類ぐらい食べた日もありますね。当然、食べるだけでは終わらず、その都度、味について話し合いをします」(遠藤さん)

カレー巡りの合間には、市場に行ってスパイスなどの食材を探究。食器などカレーの周辺アイテムも見て回って、商品開発のヒントを探し尽くすという。

■王者「バターチキン」に次ぐ人気のレトルトカレーは

今年6月に発売された「3種の唐辛子とチキン」は、この現地出張から生み出された新作だ。真っ赤なソースは野菜によってとろみがつき、口にすると鮮烈な辛さが舌に突き刺さる。だが、ただ辛いだけでなく、優しい甘味とうま味がじんわり広がって後味は爽快。パンチの効いた味わいは今夏の酷暑にふさわしく、売り上げでは「バターチキン」に次ぐ人気だ。

無印良品レトルトカレー売れ上げランキング5
1位 バターチキン
2位 グリーン
3位 3種の唐辛子とチキン
4位 ジンジャードライキーマ
5位 キーマ
※2018年8月6日の週の集計。いずれも商品名の最初に「素材を生かしたカレー」が入る

このほかインド系のカレーには、ローストココナッツの食感が特徴の南インドカレー「チキンシャクティ」、カッテージチーズを使った濃厚な味わいの「パニールマッカーニー」、羊肉を使いスパイスをたっぷり効かせた「マトンドピアザ」などを取りそろえた。

「バターチキン」のようなおなじみのカレーだけでなく、マニアックな路線も攻めた品ぞろえの幅広さに無印良品の魅力はあるのだろう。

■レギュラーサイズの半量90gの“小さめカレー”も人気

一方で、商品開発は「食べるシチュエーション」という観点からも検討され、今年1月にはレギュラーサイズの半量90gの“小さめカレー”を発売している。ミニサイズのカレーは高齢者や子どもでも食べ切れて、小腹が空いたときにもぴったり。スパイスカレーでよく見かける複数のカレーを一皿に盛り合わせる合いがけスタイルも提案されている。

もちろん、他のメーカーのレトルトカレーを食べても、ひしひし感じるのはスパイスカレーに対する本気度。レトルト食品の専門メーカー「にしき食品」では、「にしきや」のブランドで32種類ものインドカレーを商品化している。

「エスビー食品」では、人気店のカレーを再現した「噂の名店シリーズ」がカレーマニアをうならせている。

スパイスの香り豊かなカレーを家庭で手軽に楽しめるのは、まさしくカレー新時代の象徴。「dancyu」9月号では店で味わうスパイスカレーの名作も紹介しているので、自宅やお店もスパイスフルな暮らしを満喫してみてはいかがだろうか。

———-

※雑誌「dancyu」(9月号)の特集「スパイスカレー 新・国民食宣言」では、厳選したスパイスカレーの名店8軒、他店を間借り・週1のみ開店といった「インディーズ系」4軒、行列・予約不可・早仕舞いの大阪スパイスカレー店8軒のほか、自宅で再現できる名店レシピなど、カレーにまつわる最新トレンドを紹介しています。ぜひご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました