固定・携帯電話を問わず24時間、1回あたり10分以内の国内音声通話が無料になるウィルコムのサービスが人気だ。PHS会社・ウィルコムは2010年2月に経営破綻し、東京地裁に会社更生法の適用を申請していたが、国内通話をすべて無料とする「だれとでも定額」の開始により、契約者が急増。12年3月末には累計契約者数が過去最高を突破(468万1600件)した。
携帯・PHSの無料通話といえば、同社が同じキャリアのユーザー間での通話を24時間無料とする定額サービスを05年に開始して以降、ソフトバンクやKDDI、NTTドコモも時間帯や通話先を限定したサービスを提供中だ。だが、業界の常識としては「同じキャリアのユーザー間のみ」という閉じた世界での定額が当たり前だった。なぜなら、他社に通話する場合は「接続料」というチャージを接続先キャリアに払う必要があるため、定額制の実現が困難であるとされたからだ。
そんななか、ウィルコムは1450円の基本料金と980円のオプション料金の合計である2430円さえ支払えば1回あたり10分、月に500回まで、携帯電話や固定電話を問わず誰でも定額というプランをぶち上げたのだ。仮に制限いっぱいの10分間、月に500回かけると、21万円の通話料になる。果たして、これで儲けることができるのか。
同社の寺尾洋幸マーケティング本部長は「すべて我々の想定通りで、全く問題ない」と断言する。
サービスの本格導入前、ウィルコムでは沖縄や仙台、北海道、広島などでテストマーケティングを実施。地域によって300回、500回、1000回などの制限値を変えて、適正値を探ってきた。
もともとウィルコムは、ネットワークは大量のデータ通信を捌けるだけの強固なものを構築していたが、ユーザーが減ったことで、がらがらの状態に陥ったのだった。そこに、24時間の音声通話を開始しても、ネットワークに与える負荷は微々たるもので、「インフラ投資を気にする必要のなかった点が大きい」(寺尾氏)というのだ。
また、経営破綻により、ソフトバンクがウィルコムの支援企業になったことも幸いした。「いままではKDDIやNTTコミュニケーションズなどから回線を借りていたが、それらをソフトバンクテレコムに切り替えた。グループレートにより、インフラコストがさらに下がった」(寺尾氏)。
だれとでも定額を始める前には、同社の主力はウィルコムのユーザー間での通話が無料となるプランだった。カップルの長電話需要にユーザーを増やしたが「恋愛が冷めると電話をしなくなり、それが解約につながる。網内定額の弱点だった」(寺尾氏)と振り返る。
だれとでも定額は、ウィルコム内だけでなく、他社の携帯電話、固定電話など相手を問わず、24時間定額となる。そのため、契約したユーザーは、多くの人に電話番号を教えるようになる。「カップルの長電話用途ではすぐに解約されるが、電話番号をいろんな人に教えるようになると、解約しづらくなる」(寺尾氏)という。
賢いユーザーであれば、長電話をする際に10分ごとに切断し、再発信すれば通話料を無料にすることできる。しかし実際は、親しい相手であれば10分で切断することも可能だが、仕事上のトラブルの通話ではそんなことはできるわけがない。結果、無料通話の範囲を超えた通話となり、有料通話として収益につながっていく。
網内定額のみのころは、24時間で何分しゃべっても無料であったため、収入につながらなかったが、だれとでも定額によって他社にかけるようになり、結果、長電話によって通話料収入を得られるようになった。インフラ投資もかかっていないため、「定額でも儲かる」構図が描けたのだ。