東日本大震災で発生した災害廃棄物の広域処理で、国が可燃性がれきの受け入れ基準で示した放射性物質濃度の目安が形骸化している。福島第1原発事故で放射能に対する住民の不安が高まっていることから、受け入れる自治体が独自により厳しい基準を設ける傾向が強まった。専門家は「いずれの数値でも安全性に問題はないが、独自基準が住民の理解を得る一つの説得材料になっている」とみている。(吉江圭介)
◎住民理解の説得材料に
<独自の数値設定>
環境省は昨年10月、がれき広域処理の安全性ガイドラインに、放射性物質濃度は焼却炉の構造に応じて1キログラム当たり480ベクレル以下か240ベクレル以下とする目安を盛り込んだ。焼却灰の埋め立て基準は8000ベクレル以下とした。
岩手、宮城、福島3県内を除き、ガイドライン公表後にがれきを受け入れた4県で、国の数値を取り入れたケースは一つもない。秋田、静岡、群馬各県は100ベクレル以下と設定。青森県は放射性物質の測定機の検出下限値を下回るなどしたがれきを受け入れている。
広域処理に協力を表明している自治体も100ベクレル以下が主流だ。大阪市、富山、愛知、三重各県、関西広域連合などが同様の基準を打ち出した。石巻市のがれきについて、今月中に焼却を始める北九州市と、今月下旬にも本格的に引き受ける見通しの茨城県も100ベクレル以下とした。
<最後は「エイヤ」>
ガイドライン公表に先立ち、昨年8月に都道府県レベルで初めて基準を設けた山形県は200ベクレル以下と定め、9月に受け入れ表明した東京都は国の埋め立て基準に沿った形で運用している。
環境省は「100ベクレル以下は廃棄物を安全に再利用できる数値」と説明するが、多くの自治体が採用する背景には、住民の放射能への不安から広域処理が進まなかった経緯が大きい。
2月に岩手県とがれき処理の協定を結んだ秋田県環境整備課は「100ベクレル以下は放射性物質として扱う必要がない数字で、住民に説明しやすかった」と言う。
ある自治体の担当者は「自治体が科学的見地に基づき判断するのは難しい。国より厳格な値なら、住民に納得してもらえると思った。最後は『エイヤ』で数字を決めた」と明かす。
<「許容量考えて」>
目安が活用されない状況に、環境省廃棄物対策課は「国としては安全確保上の数字を定めた。地域の実情に合わせ、安心の観点で自治体が数値を引き下げることに問題はない」と静観するが、基準には課題を残した。
京都大大学院の米田稔教授(環境リスク工学)は「広域処理を早く進めるには、住民を説得しやすいレベルまで厳格化する事情があったのではないか」と推測する。
「国の基準でも国際的に安全性が認められた数値であり、国民全般にリスクが過大に捉えられる傾向がある。放射性物質を本質的に理解し、どの程度は許容されるかを考えていく努力が必要だ」と提起する。
<メモ>環境省によると、5月21日現在、岩手、宮城両県で発生したがれき総量は1679万トン。このうち計247万トンの広域処理を各都道府県などに要請した。福島第1原発事故の影響で、福島県のがれき201万トンは県内で処理される。