焦点/セシウム新基準から半年(上)東北の生産者奮闘

福島第1原発事故を受け、野菜や魚など一般の食品に含まれる放射性セシウムの新基準が4月に導入され、半年がたった。1次産業が主力の東北では、新基準をクリアしようと生産者が懸命の努力を続ける。国は新基準で「安全は十分に確保される」と説明するが、消費者からは「安全の根拠があいまいだ」との声も上がる。数字に揺れる生産と消費の現場を探った。(末永智弘)
◎除染・検査きめ細かく/野菜・肉類・果物、ほぼ基準内
<宮城、超過1.1%>
 東北の各県は、過去に暫定基準値を超えた農林水産物を中心に、乳製品や漬物、清涼飲料などの加工食品も検査している。新基準導入後の4~9月、6県別の検査件数などは表の通り。
 基準値を超えた割合は福島で4.5%、岩手で2.3%、宮城で1.1%にとどまった。ワラビなどの山菜類、魚類の超過が多いが、基準を上回った食品は市場に流通しない。また、野菜や肉類、果物はほぼ全てが基準値内に収まっている。
 原発事故後に設定された暫定基準値より厳しくなったことに対し、「消費者の信頼を得るために仕方ない」と受け止める農業関係者も多い。基準内に収めるために、きめ細かく対応している。
 新ふくしま農協(福島市)や伊達みらい農協(伊達市)は昨年11月からことし3月にかけ、管内の全果樹園を除染した。高圧の水で樹木を洗って付着した放射性セシウムを落としたほか、ブドウやリンゴ、ナシなどは樹皮を削った。伊達みらい農協によると、作業の結果、果樹園の空間線量が80%低減できたという。
 主力のコメでは各県が農協などを通じ、水田にゼオライトやカリウムの散布を指導。稲へのセシウム移行を抑える対策を講じた上で、土を深く耕してから田植えをするよう徹底した。「基本作業をしっかりやることで一定の効果が得られた」(宮城県農産園芸環境課)という。
 昨年は暫定基準値を超える例が出た牛肉。ことし2月以降、餌に含まれるセシウムも1キログラム当たり100ベクレル未満とした結果、セシウムはほとんど検出されなくなった。宮城県内で4~9月に検査した9899頭のほぼ全てが検出下限値(50ベクレル)未満だった。全農宮城は「安全な餌を与えていれば、セシウムはほとんど検出されない」と強調する。
<自家米も全袋>
 生産者は、収穫後のチェックにも力を入れる。
 福島県はことし、販売目的ではない自家米や縁故米も含め、収穫したコメの全てを検査している。「安全宣言」の後、農協の自主検査で暫定基準を超えるコメが見つかった昨年の反省を踏まえたという。県水田畑作課は「100ベクレルという新基準も全袋検査に踏み切った理由の一つ」と語る。
 新ふくしま農協の永石正泰技術参与は「検査体制の充実は今後の除染や農家への技術指導にもつながる。気を緩めず、安全でおいしい農作物を届けたい」と話している。
[食品中の放射性セシウムの新基準]原発事故後に設定された暫定基準値は内部被ばくの年間線量を5ミリシーベルトまで認め、野菜や肉などは1キログラム当たり500ベクレルの設定だった。2012年4月に施行された新基準は内部被ばくの許容線量を年間1ミリシーベルトとし、飲料水は10ベクレル、牛乳と乳児用食品は50ベクレル、一般食品は100ベクレルとなった。

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