焦点/セシウム新基準から半年(下)「正しく怖がる」実践

福島第1原発事故を受け、国が4月に適用した食品の放射性セシウムの新基準(1キログラム当たり100ベクレル)については、消費者の間で「本当に大丈夫なのか」という声が根強い。不安を解消しようと、さらに厳しい自主基準を設ける小売業者もいる。福島県内では食事に含まれるセシウムの量を計測し「正しく怖がる」を実践する取り組みが始まった。消費の現場で試行錯誤が続く。
◎業者、自主検査を強化/東北産、敬遠が減少
<限界以下だけ>
 大手スーパーのイオンは昨年11月、食品の放射性物質の自主検査体制を強化し、原則として検出限界値を下回った食材だけを販売する方針を打ち出した。イオンリテールの近沢靖英副社長は「基準内といくら強調しても安心にはつながらない。お客さまに可能な限り安全な商品を提供することが、小売業者の責務だ」と言い切る。
 店頭では「放射性物質ゼロを目標」とアピールし、「売り場の食品は安全と信頼されるようになった」(イオン広報)。東北産の食材が敬遠されることは減ったという。
 9月下旬には、いわき市の小名浜港に水揚げされたサンマを東北や関東の店舗に並べ、好評を得た。近沢副社長は「安全が確認された食材は積極的に扱い、被災地の復興に役立ちたい」と語る。
 新基準「100ベクレル」が運用されて半年たつが、消費者にはその根拠や意味が、十分に浸透していない面がある。
 NPO法人日本消費者連盟(東京)の古賀真子共同代表は「国は『大丈夫だ』と言うだけでなく、きちんとした情報を提供することが大事だ」と課題を挙げる。「放射性物質の摂取は可能な限り避けなければならない。検査の数値も表示してほしい」とも言う。
<被ばく量計算>
 実際の食事による内部被ばくはどの程度なのか。コープふくしま(福島市)は、組合員の食事に含まれるセシウムの量を独自の手法で調べている。2日間で6食分の食事を1人分ずつ余分に作ってもらい冷凍保存。1キログラム当たり1ベクレルまで測定できるゲルマニウム半導体検出器を用いて測る。
 昨年11月~今年4月と、6月~8月の2回、福島県内の各100世帯を調査した。1回目は10世帯から1キログラム当たり11.7~2ベクレル、2回目は2世帯から3.2ベクレルと1ベクレルのセシウムが検出された。
 仮に1年間同じ量のセシウムを取り続けたとしても、内部被ばく線量は最大で年間0.14ミリシーベルトとの計算。新基準で目指す年間1ミリシーベルトを大きく下回った。
 コープふくしまによると、2回目の調査では、9割以上の世帯が福島県産の食材を使っていたという。組合員からは「数値が確認できて安心につながる」「福島県産でも大丈夫と感じた」などの声が寄せられた。
 宍戸義広常務理事は「放射能の影響を『正しく恐れる』ことが大切だ。調査を食の安心を取り戻すきっかけにしたい」と話す。

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