健康のため、毎朝、牛乳やヨーグルトなど乳製品を摂取している人は少なくない。しかし、乳製品には、予想外の健康上のリスクがあるという。
「牛乳などの乳製品を摂りすぎると、がんのリスクを上げる可能性があります」
こう語るのはUCLA医学部助教授の津川友介氏だ。
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「乳製品の積極的な摂取を勧めるエビデンスはない」
津川氏は内科の臨床医として経験を積んだ後、ハーバード大学で統計学を学んだビッグデータの専門家だ。昨年発売され、わずか10日間で10万部のベストセラーとなった『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』の著者でもある。
津川氏はこう指摘する。
「牛乳などの乳製品については、アメリカで賛否両論が起こっています。日本の農林水産省に相当するアメリカ農務省は、乳製品の有用性を認め、食事ごとに摂取することを推奨しています。これに対して、ハーバード大学の研究者たちは、『乳製品の積極的な摂取を勧めるエビデンスはない』と否定しているのです」
乳製品の摂りすぎで前立腺がんに……
乳製品の摂りすぎが原因と見られる病気のひとつが前立腺がんだ。2020年以降、男性では胃がんを抜き、患者数の第1位になるとする予測もあり、日本でも急速に患者数が増えている。
2015年に「アメリカ臨床栄養学会誌」に発表された80万人以上を対象とした研究によれば、乳製品の摂取量が1日当たり400グラム増えるごとに、前立腺がんのリスクが7%上昇するという。
「この研究では牛乳や低脂肪乳、チーズなどどんな乳製品をとってもリスクが上がることが示されました」
卵巣がんのリスクは13%上昇!?
さらに津川氏は、驚きの研究結果を紹介する。出典元は、国際がん学会誌(Larsson SC, Orsini N, Wolk A. Milk, milk products and lactose intake and ovarian cancer risk: a meta-analysis of epidemiological studies. Int J Cancer. 2006; 118(2):431-441)に掲載された論文だ。
「牛乳を1日1杯多く飲むごとに卵巣がんのリスクが13%上昇することを示す研究もあります」
ただ、乳製品が一概に悪いかといえば決してそんなことはない。
では、1日の上限量は?
「ヨーグルトの摂取量が多い人ほど、糖尿病の発生率が低くなることを示す論文が発表されています。また、成長期の子どもは乳製品によって積極的にタンパク質を摂るべきとする考え方もあります」
また、津川氏によると、前述したハーバード大学の研究者たちによる推奨では、牛乳は1日1~2杯、ヨーグルトは170~450グラムまでを摂取の上限量としているという。
「前立腺がんと卵巣がんに関するエビデンスを考えると一般的な成人にとっては牛乳などの乳製品はできるだけ控えた方がいいと言えそうです」
日常に潜む意外な食品の健康リスク。私たちは、何をどのように、どう食べるべきなのか――。 「文藝春秋」8月号 に掲載した津川氏の論考「血管を守る『卵、肉、魚』の食べ方」では、乳製品以外にも卵や肉、魚、大豆など、健康にいいタンパク質の摂り方について詳述している。