会員数は30万以上、主なユーザーはギャル。ピンクで彩られたサイトには、きらびやかなプロフィール画像や絵文字、ギャル文字が踊る。
モバイルサイト「ショッピーズ」(PCからもアクセス可能)は、プロフィール画面を兼ねたショップを作り、ユーザー同士で商品を売買できるサイトだ。商品は現金かポイントで購入でき、ポイントを使っていらない服と欲しいものを交換するなど、物々交換感覚で使うユーザーも多い。
今でこそ30万人以上に使われているが、開設から2年間、ユーザー数はほとんど伸びなかった。サイトに転機をもたらしたのは、ファッション好きな若い女性やギャルといった現在のターゲットから拾ったニーズだった。
●「自分のお店」でプチ売買
同サイトの主なユーザーは10代後半~20代前半の女性。「ポップティーン」や「小悪魔ageha」などを読むいわゆる“ギャル”層が多い。華やかなサイトデザインでピンクを基調に絵文字や画像が多く使われている。
ユーザーは、自己紹介などプロフィールを設定し、「ショップ」を作って売りたい商品を出品、ほかのユーザーに販売する。
ショップは背景色や文字色を変えられるほか、「ショピコレ」という有料のデザインスキンを使って華やかにすることも可能。カスタマイズした“自分のお店”という感覚が、友人に紹介するモチベーションにもつながるという。
出品物の8割は、洋服やコスメ、美容関連の商品だ。平均単価は1500円と低価格で、「商品を安価で取引できる点が若い女性に受けている」と、運営元の ITベンチャー、スターダストコミュニケーションズの井上大輔社長は話す。
アクセス先に自分のユーザーネームが残る「あしあと」機能を利用し、ユーザーネームに「大特価中」と付けてほかのユーザーのページを回ったり、タイムセールを実施して購入者を誘い込むなど、ユーザー発の販促活動も盛んだ。
●1日の取引、約4000~5000件 物々交換感覚でポイント循環
購入に使える決済手段は、おサイフケータイに搭載されたEdy、コンビニ決済、商品が売れた場合などに入手できる独自ポイントだ。コンビニ決済、おサイフケータイの場合には200円の決済手数料がかかるが、ポイントの場合には手数料がかからない。
売り手は、売り上げすべてをポイントで受け取る仕組み。売れた商品の価格から出品手数料数%を引いた額と同等のポイントが支払われる。ポイントは買い物に使えるほか、210円の手数料を支払えば1ポイント1円で換金できる。ポイントは、お金に換えるユーザーより、買い物に使うユーザーの方が多いという。
1日の取引件数は約4000~5000。ユーザー同士のやりとりの間に同社が入るエスクロー方式で、購入者が先に支払いを済ませ、支払いを確認した上で出品者が商品を送る。受取人は、商品が届いたら受取通知を行い、受取通知が完了した時点で、出品者に対価が支払われる。
「買ったけど着てみたらイメージとは違った洋服などを売り、代わりに得たポイントで、欲しいものを安く手に入れるという物々交換感覚のユーザーが多い。ポイントの循環ができている」。サイト内を見てまわると、「交換希望!」と、商品の物々交換を希望するユーザーを見かけることも多い。
●「受ける要素はユーザーが勝手に作ってくれる」
「プロフィール画面に商材を置いて、ユーザーが商売できたら面白いのではないか」――“ショップを持って物を売る”というスタイルは、プロフサイト「前略プロフィール」を見て思いついた。
2006年11月のオープン当時は、勤めていた会社の同僚と3人で同社を起こしたばかり。「何かしらサービスを出してみたい。まずは作ってリリースして、ニーズを拾いながらやっていけばいい」と、構想3日、開発1カ月程度でスタートした。
スタートから約2年、ユーザー数はほとんど伸びなかったという。08年8月、当時メインユーザーだった「ファッション好きな若い女性」をターゲットにサイトを大幅リニューアル。ユーザーのリクエストやサイト内での動きを分析してデザインを大きく変えた。ピンクを基調に、文言も砕けたものに変更。絵文字も取り入れた。
「PC向けWebサイトのコアユーザーや男性は、シンプルで理路整然としたサイトを求める。でも、モバイルサイトのコアユーザーは迷路のようなサイトに面白さを見つけてはまっていく」
ユーザーから依頼のあった「商品ウォッチリスト」「アラートメール機能」、自分が探しているものを書き込める「探し物掲示板」も実装。要望に次々に応えていくうち、ユーザー数が増えたという。
ユーザーの要望を反映した機能は、「こんなちょっとした機能でいいの?」と思うようなものでも受けたが、コミュニティー機能など「こちらが考えて提供したトップダウンのサービスはあまり受けなかった」そうだ。開発の規模にもよるが、早ければ、朝始めて夕方には実装するスピード感で対応。スピード対応も同社が重点を置くポイントだ。
売買サイトやコミュニティーサイトではトラブルも起きがちだが、同社は「治安のいい空間を作ること」を心がけているという。トラブルの原因になりがちな手続きにはアラートを出す。
例えば、出品商品に関する質問ができる「質問掲示板」には、質問に回答してもらった場合相手にお礼を言うように促す文章を表示。ほかのユーザーへのメッセージ送信画面には、ユーザー同士のサイトを介さない直接取引を禁止する告知を出すなどしてトラブルを防いでいる。
ユーザーからのトラブルの通報には、13人のサポート担当者が対応。「送ったものが汚れていた、ユーザーを中傷するような書き込みがあったなど、ユーザー同士のやりとりで発生した小さなトラブルでもできる限り対応する」という。
同社のスタンスは、ユーザーの活動を後押しすること。「機能やサイトはユーザーニーズをくんで作り、サイトの治安や文化もユーザーが作っている。ニーズをくんでいくうちにユーザーが付いてきた。受ける要素はユーザーが勝手に作ってくれる」
●奇抜ではなく、革新的な技術もいらない 「日常に入り込めるサービスを」
サービスは08年夏に黒字化。会員数の増加に比例して売り上げも伸び続けているという。決済手数料とサイト内広告が収入源で、月間売り上げは 2000~3000万円。6~7割が手数料収入という。
今年の夏までに100万会員達成が目下の目標だ。そのための組織作りにも取り組んでおり、ユーザーサポートの人数も昨年の6人から倍増した。「組織を広げ、よりニーズをしっかり拾いながらサービスを成長させていく。スピード対応も加速したい」
「スマッシュヒットや変わったサービスじゃなくていい。奇抜ではなく、革新的な技術もいらない、ユーザーが欲しいと思えるサービスをどこよりも作れる会社になりたい」。ユーザーが、毎日1時間使いたくなるような、日常に入り込めるサービスを目指す。
同社のビジョンは、「ネットの技術で新しい文化をつくる」こと。井上社長の夢は、「街中を歩いていて自分が作ったサービスを使っているのを目にすること」だ。「SNSやオークションのようにC2CのモバイルEC市場にフリマというジャンルを確立したい」
【小笠原由依】