大手牛丼チェーン「松屋」は4月3日、ランチメニューのラインアップを拡大した。これまで提供していた「牛めし」「ネギたま牛めし」「鬼おろしポン酢牛めし」「ビーフカレー」のランチに加えて、「チーズ牛めし」「キムチ牛めし」「ネギとろろ牛めし」に生野菜をつけた3種のセットを用意。さらに、ランチメニューの提供時間を「午前11時~午後2時」から「午前11時~午後3時」に延長した。 【画像】松屋、サイゼ、ジョイフルの500円ランチ、大手の格安メニュー、セブンの399円弁当(計12枚) なぜ、このタイミングでランチを強化するのか。松屋を運営する松屋フーズによると、進学や就職などにより、4月から新しい環境で過ごす人が増えるためだという。落ち着いて昼食をとる時間を確保しにくいことから、ランチ提供時間を1時間延長した。 ランチメニューの価格は、牛めし(並盛)、みそ汁、生野菜がセットになったものが500円と最も安い。その他のメニューも生野菜が付いており、個別に注文するより40~90円安くしている。同社の広報担当者は「松屋は駅前などに多くあり、ビジネスパーソンの方々によく利用されています。野菜の付いた定食を安く提供することにはずっとこだわってきました」と説明する。 競合の状況はどうか。 「すき家」では、牛丼(並盛)、サラダ、みそ汁で構成される「牛丼ランチセット」が580円になっている。同社の広報担当者によると、すき家では4月3日に牛丼並盛を400円から430円に値上げしており、その影響を受けてランチセットも550円から580円としたという。同様のセットを通常時間に注文すると630円となることから、ランチタイムは50円安いことになる。広報担当者は「特にお客さまの利用が多いランチタイムで、価格改定後もお手頃な価格で提供できるように努力しています」と説明する。 すき家では、その他のランチメニューとして「牛丼シーザーサラダランチセット」(630円)や「牛丼Wセットランチ」(680円)を用意している。提供時間は午前11時~午後2時だ。すき家の特徴は、セットにした時の割引額が大きい商品があることだ。具体的には、牛丼(並盛)、ミニカレー、みそ汁がセットになった牛丼Wセットランチは個別に注文するケースと比べ、240円安くなっている。 「吉野家」は2020年1月より、午前11時~翌朝4時にごはん、みそ汁、2種のおかずをセットにした「W定食」を提供している。いくつか種類はあるが、例えばW定食(牛皿・鉄板牛焼肉定食)は908円となっている。また、店内飲食の場合に、増量・おかわりを無料としている(テークアウト時には増量が無料)。肉のおかずを2種類楽しめるようにしていることから、「肉をたらふく食べたいお客さまや、ボリュームを求めるお客さまからご好評をいただいております」(広報担当者)という。 吉野家では、18~20年頃に関東の一部店舗限定でランチセットの実験販売を実施したことがある。実験の結果、W定食のほうが需要が見込まれるため、現在の体制になったのだとか。 ちなみに、吉野家の牛丼並盛は468円で、みそ汁とサラダがセットになった「サラダセット」は206円となっている。 こうして大手牛丼チェーンのランチメニュー戦略を見ると、看板メニューの牛丼並盛や朝食メニューとの類似点が見えてくる。 牛丼並盛の価格を見ると、松屋は400円、すき家は430円、吉野家は468円だ。また、最も安い朝食メニューを比べると、松屋とすき家は290円の卵かけごはんの定食を用意しているが、吉野家の最安は430円の納豆定食となっている。価格の安さでは、朝食・昼食で松屋とすき家が競っている状況といえる。
500円ランチを用意するチェーン
他の外食企業に目を転じると、500円で提供しているチェーンがいくつかある。 「ジョイフル」では、月~土曜日の日替わりランチを500円で提供している。例えば、月曜日は「ペッパーハンバーグ&ひとくちチキンソテー」にライスもしくはパンが付いている。 「サイゼリヤ」では、サラダとスープが付いたスパゲッティとドリアが500円となっている。 「マクドナルド」は24年1月、「てりやきマックバーガー」「フィレオフィッシュ」など全メニューの3分の1を値上げした。一方、セットメニューについては一部を除いて価格を据え置きとした。背景には強まる消費者の節約志向があるとしている(出所:日本経済新聞「マクドナルド、ビッグマック値上げ 1月24日から480円」)。そして、500円台で手軽に楽しめるバリューセットに新商品「マックチキン」を加え、「ちょいセット」としてリニューアル。マックチキンは、ドリンクとポテトのセットで500円~提供している。日本マクドナルドは、ちょいセットという名前にした理由について、「お腹にもお財布にもちょうど良いセットとしてより親しんでもらうため」としている。 大手ファミレスの「ガスト」では、日替わりランチを520~770円で提供している(ガストでは地域別に4つの価格帯が存在)。4月上旬までは500~750円だったが、値上げに踏み切った。提供時間は平日の午前10時30分~午後5時。公式Webサイトによると、月曜日の日替わりランチは、おかわり自由のスープ、大盛無料のライス、ミニチーズINハンバーグデミソースとチキンオニオンソースで構成されている。
コンビニの状況は?
外食チェーンのランチと競合する存在として、コンビニが挙げられる。 セブン-イレブンでは400円以下の弁当を強化している。4月上旬に都内のある店舗を訪ねたところ、チルド弁当の「ハヤシライス」「麻婆丼」「キムチチャーハン」「バターチキンカレー」「五目チャーハン」が399円で販売していた。安い弁当の存在感が高まっている状況で、消費者の根強い節約志向が背景にあるという(出所:東洋経済オンライン「セブン、『400円以下』弁当の拡充が意味する課題」)。これらの399円弁当と一緒に、108円のペットボトル飲料を購入すれば、ほぼ500円ランチとなる。 ファミリーマートでは、298円の鶏そぼろ弁当や358円のカレーを販売している。こちらも安価なペットボトル飲料と一緒に購入すれば500円を下回る。 このように見ると、コンビニもワンコイン(500円)を意識した値決めをしているように見えるが、実際のところはどうなのか。この疑問をローソンの広報担当者にぶつけてみると次のような回答があった。 「商品の値段を決める際、買い合わせのことを意識することもあります。ローソンでも300円台のお弁当を取り扱っており、ドリンクを購入すると500円以内に収まります。また、プライベートブランドのカップラーメンを200円以内に設定しており、おにぎり、ドリンクと一緒に購入しても500円以下になります」 ローソンではコスパを重視した利用客に向けて、大容量のプライベートブランドのカップ麺「麺大盛り 辛みそラーメン」(198円)などを強化している。
ランチにかける予算は?
現在、ランチにかける予算はどの程度なのだろうか。いくつかの調査データを参照してみよう。 調査会社のマイボイスコム(東京都千代田区)が、9907人のアンケートモニターに、昼食(平日)の平均的な予算を尋ねた。すると、「100円未満」は7.8%、「100円以上~300円未満」が31.9%、「300円以上~500円未満」が35.6%という結果に。500円未満は全体の75.3%だった(調査期間23年2月1~5日)。 ホットペッパーグルメ外食総研が23年3月に実施した調査によると、働く人の平日ランチは平均予算が447円だった(有効回答数5485件)。ランチの食べ方については、「自炊、または家族などが作った食事」(31.4%)が最も多く、「小売店や飲食店で購入した食事」(20.8%)、「自分、または家族などが作った弁当」(19.3%)、「社食、学食」(8.2%)、「外食店内での食事」(7.9%)と続いた。 こうしてみると、ランチの予算は500円以下という消費者が多いことが分かる。 人件費や原材料価格の高騰で、値上げを迫られるチェーンも多い。ランチタイムにおける500円の壁を巡る競争はいつまで続くのか。