物価高騰と歴史的円安で負担増は平均8万円、倒産もじわり

世界的な資源価格高騰に、終わりの見えない円安――。日本経済を強烈なダブルパンチが襲っている。相次ぐ値上げラッシュが家計を直撃し、1世帯当たりの負担増は平均8万円超に達する見通しだ。果たして日本は耐えられるのか。

 円安は長く、輸出立国の日本経済にとってプラスになると言われてきた。「確かに海外への輸出が多い製造業では(円安による)プラス効果が大きい」。こう指摘するのは、みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・主席エコノミストだ。

 だが、メリットばかりではない。「消費者の側から見れば、円安の進展は輸入価格の高止まりを通じて消費者物価上昇につながる。実質所得が目減りすることを意味する」。最近はこうした円安による弊害が目立っている状況だ。

 1ドル=150円の歴史的な円安・ドル高水準が今後も続くと、家計にはどの程度の負担増になるのか。酒井さんに試算してもらった。

 岸田文雄政権は今年9月、ガソリン元売り各社に対する補助金支給の延長など新たな物価高対策を打ち出した。こうした効果を織り込んだとしても、2022年度の1世帯(2人以上)当たりの負担額は21年度に比べ平均8万6462円増加するという。

 増加分のうち、約半分の4万1877円を値上げラッシュが続く食料品関連が占める。ガソリン代、電気代などのエネルギー関連の増加も3万5329円とかなり重い。これに対し、政府の物価高対策による抑制効果は2万円程度。負担増がはるかに上回る計算だ。

 酒井さんは「賃金があがらず、物価だけがあがっていく『悪い物価上昇』が始まっている」と指摘。「円安そのものを止めるのは難しい。政府には賃金の伸びを高めていく中長期的な戦略が求められる」と岸田政権に助言する。

 つらいのは家計だけではない。調査会社「東京商工リサーチ」が全国約5000社を対象に実施したアンケートによると、1ドル=140円台半ばだった9月時点で、為替水準が経営にマイナスとなると答えた企業は半数超の54・1%を占めた。中でも飲食店、繊維・衣服等卸売業、食料品製造業では「マイナス」との回答が8割を超えた。

 望ましい対ドルの為替水準を尋ねたところ、大多数の72・6%が「110円以上125円未満」をあげた。年初の1ドル=110円台半ばからわずか1年足らずで30円以上も下落した足元の急激な円安の動きに企業の対応が追いついていない実体が浮かぶ。

 円安が主因の倒産もじわり増加している。9月は5件の円安倒産が発生。すべて卸売業が占め、円安で海外からの輸入コストが膨らみ、コスト上昇分を販売価格に十分転嫁できないといった事例が目立つという。年明け以降の円安関連倒産は計12件に達し、18年(14件)を上回って近年では最高になるのは確実だ。

 政府・日銀も焦りの色を強めているが、打つ手は限られているのが実情だ。

 欧米など世界各国の中央銀行が金融政策を緩和から引き締めに転じる中、日銀が大規模な金融緩和策を維持し続けているため日米の金利差が拡大し円安を加速させている状況だ。日銀を率いる黒田東彦総裁は19日の参院予算委員会で、足元の円安について問われると「急速かつ一方的だ。経済にとってマイナスで望ましくない」と認めた。

 ただし、日銀は今でも「現在の為替相場は円安というより米国の政策変更によるドル高の状況。景気を冷やしてまで日銀が金融政策を修正しても結果は大きくは変わらない」(関係者)というのが本音。政策を見直す可能性は低い。

 岸田政権にとっても、物価高、円安に手をこまねいていてはさらなる支持率低下を引き起こす懸念がある。10月末の策定を目指す総合経済対策の柱を物価高騰に据えたのもこのためだ。

 電気料金の抑制策など具体策も出てはいるが、これだけで円安の流れを封じるのは難しい。物価上昇、円安のダブルパンチに対し対症療法しかできないのが現状だ。【佐久間一輝】

タイトルとURLをコピーしました