独立した人権機関なく「深く憂慮」国連の部会、LGBTQ差別や男女の賃金格差にも言及

国連の専門家は、「LGBTQI+の人々に関するものなど、事業活動の関連で生じる幅広い人権問題に対する裁判官の認識が低い」と指摘。裁判官らへの人権研修の実施義務づけなどを強く要望した。

国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が8月4日に東京都内で記者会見を開き、12日間にわたる訪日調査の結果を報告した。同部会は、創業者のジャニー喜多川氏(2019年死去)による性加害が告発されているジャニーズ事務所のほか、各省庁や企業、経済団体、労働組合の代表者や人権活動家らなどとも面会していた。

訪日調査の終了に伴い公表した声明では、メディアやエンタメ業界における性暴力問題に加え、障害者やLGBTQ、移民労働者ら人権侵害のリスクにさらされやすい集団を巡る課題を指摘。政府から独立した人権救済機関の設置も求めた。

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「裁判官の認識が低い」人権機関の設置を促す

同部会は声明で、企業や経済団体に対し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」の履行の進捗や課題をヒアリングしたと報告。

企業の関係者からは、継続的な人権教育や職場レベルの苦情処理システムの策定といった「積極的な実践の報告があった」とした。

一方で、「移民労働者や技能実習生の取り扱い、過労死を生む残業文化、バリューチェーンの上流と下流で人権リスクを監視、削減する能力を含め、さまざまな問題で大きなギャップが残っていることも認めた」として、労働現場における人権問題に言及した。

声明には、人権侵害に対する救済システムの課題も盛り込まれた。同部会は今回の調査で、司法による救済へのアクセスが「特に懸念される」分野の一つとして、LGBTQの人権問題を挙げた。

「UNGPsやLGBTQI+の人々に関するものなど、事業活動の関連で生じる幅広い人権問題に対する裁判官の認識が低い」と指摘。「裁判官や弁護士を対象に、UNGPsに関する研修を含む人権研修の実施を義務づけることを強く推奨する」と提言した。

日本政府に対しては、「社会的に疎外された集団」が司法による救済にアクセスできるよう改善を求めた。

これまで国連機関から繰り返し勧告されてきた「国内人権機関」(国家人権機関)の設置についても、改めて要望があった。

国内人権機関とは、あらゆる人権侵害からの救済と、人権保障を促進することを目的とした国の機関。政府から独立し、人々の人権が侵害された場合に調査を行い、救済する役割などを担う。

同部会は、日本に専門の国内人権機関がないことを「深く憂慮している」と述べ、「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に沿って独立した国内人権機関を設置するよう促した。

人権侵害のリスクが高い集団の課題は

声明では、女性や性的マイノリティなど、人権侵害のリスクにさらされている複数の集団を挙げて各課題を指摘した。

「女性」分野では、男女の賃金格差が依然として大きいことや、非正規労働者全体の約7割を女性が占めていることに言及。「日本の労働力におけるジェンダーの不平等をよく物語っている」と批判した。

女性が昇進を阻まれたり、性的ハラスメントを受けたりする事例が報告されているとして、「性差別と闘い、安全で各人が尊重される職場を作るためには、政府が厳格な措置を導入するとともに企業がこれを実施に移さねばならない」と強調した。

「LGBTQ」分野では、調査期間に何度も性的マイノリティ当事者に対する差別の事例を耳にしたと報告。

トランスジェンダー当事者が、性別移行前の写真を履歴書に貼るよう求められたケースなどを踏まえ、「LGBTQI+の人々の権利を実効的に保護する包括的差別禁止法の必要性をさらに際立たせている」と指摘した。

同部会は他にも、障害者や部落出身者などへの差別についても言及し、警鐘を鳴らした。

テーマ別の課題報告では、健康、気候変動、移民労働者が抱える人権問題などについて提言があった。

「外国人技能実習制度」に関しては、実習先で事故に遭った実習生が解雇されたり、出身国の仲介業者への法外な手数料を負担させられたりするケースがあったと報告。

政府の有識者会議で、同制度の見直しが検討されていることに触れ、「出身国政府との連携で仲介手数料を廃止し、実習生の転職に柔軟性を認めるなど、明示的な人権保護規定を盛り込むことを期待する」とした。

同部会は2024年6月、訪日調査の報告書を国連人権理事会に提出する予定。

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