狭い日本の道路をカッコよく走る 「小型」SUVが若者も中高年も引き付ける

 いわゆる「SUV」、日本語では「多目的スポーツ車」の「小型版」の人気が国内で高 まっている。2014年まで売れ筋だった軽自動車が、2015年は増税の影響もあって前年割れが続く中、自動車業界にとって数少ない新車販売の”希望の 星”になっている。「小型SUV」人気の波に乗り遅れていたトヨタ自動車も、来年には本格参入する見通しで、市場拡大が加速しそうだ。

一口にSUVと言っても、定義はなかなか難しい。ワゴン車やミニバンでなく、一般的なタクシーのようなセダンタイプでもなく、やや座席が高く てスポーティで後部にトランクではない荷台がある―というところだろうか。一昔前の三菱自動車の「パジェロ」が一つの典型といえる。ただ、パジェロが舗装 されていない山道なども走る「オフロード型」のワイルドなものだったのに対し、最近流行している小型SUVは、いわば都市型で、小回りが効くのが特徴だ。 ガンガン走りそうな外観を持ちながら、燃費性能も良い―という点も支持されている。

  • 各社の本格参入が相次ぐ小型SUV。写真はホンダのホームページから
各社の本格参入が相次ぐ小型SUV。写真はホンダのホームページから

安くても寂しい感じがないクルマ

さらに、「小型ではない」SUVなら300万円するのは当たり前なのに対し、「小型SUV」は200万円台前半、ものによっては100万円台 で新車が買える。これが、特に若年層に人気を呼んでいるだけでなく、「高い自動車に買い換える余裕はないが小型SUVなら価格が安くても寂しい感じがな い」という中高年にも受け入れられている。

近年の「小型SUV」というジャンルを生み出したのは、日産自動車の「ジューク」だと言われる。ジュークは2010年6月にまず日本で発売さ れ、丸5年超が経過して人気が定着した。日本でクルマに乗るなら、オフロードを運転することは日常的にはあまりない。しかし、隅々まで舗装されながら、外 国に比べてかなり道は狭い。ジュークはこうしたニーズ、つまり日本の狭い道路でカッコ良く走るというニーズを掘り起こすことに成功した。また、資本提携先 の仏ルノーとの関係から、日産が比較的強い欧州も、小回りの良さが求められる道路事情は日本に近く、ジュークは人気を呼んでいるという。

ホンダの小型車「フィット」をベースにした小型SUV「ヴェゼル」も、日本国内で不動の人気を誇る存在になっている。日本では2013年12 月の発売。ヴェゼルの販売のうち、4分の3がハイブリッド車(HV)とされ、環境性能にこだわりを持つドライバーも引き寄せた。国内SUV市場でヴェゼル は2014年(暦年)で販売台数トップとなり、2015年上半期(1~6月)もトップを維持したとの調査もある。ホンダ車としては近年まれに見るヒット商 品となったことは間違いない。ヴェゼルは英語でカットした宝石の小さな面を表す「Bezel」と、車を意味する「Vehicle」を掛け合わせた造語。名 前通りに多面的な魅力を持つ車として成長しつつある。

トヨタはじめ各社が続々と本格参入する

こうした中、マツダは2015年2月、同社として初の小型SUV「CX-3」を発売。日本の乗用車としてはなじみの薄いディーゼルエンジンを 搭載したのが特徴で、ディーゼル特有の力強さをアピール。1リットル当たりの走行距離が25キロと燃費がいいことも消費者の支持を受けつつある。

米調査会社IHSオートモーティブによると、SUVの国内販売は右肩上がりで、2014年には2000年以降で初めて50万台を突破した。こうした状況を受けてトヨタも2016年中に「C-HR」と呼ぶ新型の小型SUVを発売する方針だ。

軽自動車メーカーも、スズキが2014年「軽SUV」として「ハスラー」を発売し、人気を博した。これに対抗してダイハツ工業が新型の軽 SUVを近く発売する方針。また、海外メーカーも小型SUVに注目しており、フィアット・クライスラー・オートモービルズは「ジープ」ブランドで初の小型 SUV「ジープ・レネゲード」を9月5日に国内で発売するなど、小型SUVをめぐる商戦は過熱気味だ。

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