猫の考えてること、知りたくないですか?
ベストセラー『ざんねんないきもの事典』シリーズ、『わけあって絶滅しました』の監修者としても知られる動物学者の今泉忠明さんが、解剖学、動物行動学の知見を駆使して、猫脳の謎に迫った『 猫脳がわかる! 』を一部公開します。猫の気持ちを知ってください!
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顔の表情とともに、猫の感情がよく表れるのが、しっぽです。猫の場合、「しっぽは口ほどに物を言う」、でしょうか。猫のしっぽの代表的な動きと、そのときの猫の気持ちは、次のようになります。
「しっぽを垂直にピンと立てる」…もともとは子猫が母猫に近づく際にするしぐさです。子猫は生まれたての頃、母猫に肛門を舐めてもらって排泄を促されます。そのときにしっぽを立てることを覚えて、母猫に近づくときにはしっぽを立てるようになります。また、母猫が子猫を連れて狩りへ行くときには、母猫も子猫もしっぽをピンと立てています。これは、子猫が母猫の真似をしている意味もありますが、道中はぐれないように目印としてしっぽが機能しているのです。その名残で、しっぽをピンと立てているときの猫の気持ちは、「かまって」「ここにいるよ」「うれしい」などで、相手に好意を伝えている行動です。
「しっぽの先をパタパタと小さく振る」…飼い主が名前を呼んでも、猫は鳴かずにしっぽだけを動かすことってありませんか? 見るからに「面倒くさそ~」なしぐさですが、まさしくその通り。鳴いたり、近寄っていったりするほどのことでもないと、猫は返事代わりにしっぽの先だけを振ります。また、何か興味をひく物があって、「少し気になる」気分のときも、しっぽの先を小さく振ることがあります。
「しっぽを激しく振って床にたたきつける」…こんなふうにしっぽを振るときの猫は、見るからに人相(猫相?)が悪いですよね。まさに機嫌は最悪といっていいでしょう。しっぽを床に打ち付けることで不満な気持ちを発散させています。音を立てることで、イライラ気分をアピールしているのです。こんなとき、下手にかまうと八つ当たりされる可能性もありますから、放っておいたほうがいいでしょう。
「しっぽを隠す」「しっぽを大きく膨らませる」の意味は?
「足の間にしっぽを隠す」…猫はとてつもない恐怖を感じていると、このしぐさをします。動物病院の診察台でよく見受けられるしぐさではないでしょうか? 身体もこわばっているのがよくわかりますよね。しっぽを足の間に収めることで、肛門周りにフタをして、自分のニオイを消して恐怖の対象から自らを隠そうとしているのです。まったく歯が立たないボス猫に遭遇した際には、服従の意味も持つしぐさです。
「まるでタヌキのように、しっぽを大きく膨らませる」…猫がとても驚いたときや非常に怒っているときは、しっぽが通常の2~3倍に膨らみます。この現象は交感神経が関与しています。第1章でご説明した、脳幹の視床下部に交感神経の中枢は存在し、刺激を受けると、この交感神経が緊張し、アドレナリンが分泌されます。それと同時に、体表の浅いところに張り巡らされた立毛筋が収縮してしっぽの毛を逆立てるのです。これは、人がぞっとしたりする際に「鳥肌が立つ」メカニズムと同様です。意識して行っているわけではなく、反射的な行動ですが、結果、しっぽだけでなく全身の毛も逆立ち、身体を大きく見せて威嚇しているのです。このように、猫のしっぽは雄弁ですが、なかにはしっぽがない、あるいは短い猫もいることでしょう。そうなると、長いしっぽのようには感情を表せないので、飼い主は他の部位で猫の感情を読み取るようにしたいものです。
人間がだまされる音!? 猫の「ゴロゴロ音」に隠されたメッセージとは? へ続く