タレントでカンボジア男子代表の猫ひろし(39歳・本名の滝崎邦明で出場)が、初の五輪のマラソンを2時間45分55秒で完走した。
出場した155選手のうち、完走した140選手のなかでは「ビリ2」の139位でのゴールインだったが、ゴール直後の「ニャー!」を含めたパフォーマンス に観客は大熱狂。カンボジアコールや「カンピオン!(チャンピオンだ!)」という昨日金メダルを獲得したサッカーブラジル代表が受けたコールを猫に送っ た。
◆大きな集団に小さな猫
朝9時半のスタート時は雨。かなり大粒の雨が会場のサンボドロモを叩きつける中、一斉にス タートした。最初のカーブのところに陣取った記者だが、猫の姿はおろか日本人選手の姿もなかなか見つけられなかった。あっという間に先頭集団が通りすぎ る。体格の大きな選手たちがどんどん走り抜けていくが、まったく姿が見えない。しかし、最後の最後、大きな体の選手に隠れるように現れた身長155cmの 小さな猫の姿が目に入った。
⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1183522
普段の表情とはまったく違う眉間にしわを寄せた「勝負師の顔」。どんどん小さくなる小さな背中を見届けて、記者は地下鉄で先回り。周回コースとなっている14km地点に到着した。
コースには日本人選手を応援する方々がたくさん集まっている。80歳となった五輪おじさんも袴姿で沿道で応援している。先頭集団につけていた日本人が通り 過ぎると大歓声。その後いくつかの集団が次々と選手が通過する。全ての選手がとおりすぎてしまった、と思った刹那、遠くに見える小さな小さな姿。「猫がん ばれー!」日本人の声援が飛ぶと、右手をさっと挙げて声援に応える猫。
しかしこの14kmポイントは周回コースの1周目。この後2周目 (24km)3周目(34km)と10kmごとに通過していくのだが、当然先頭との差は広がる一方。5kmの速報タイムでは最下位だったが、14kmを通 過したときには、猫の後ろにはヨルダンの選手がいた。ここを通過するたびに険しくなる猫の表情。
雨は上がり、時折薄日が差している。日本人選手も苦しそうに顔を歪めており、詰めかけた日本人応援団の声援も一層大きくなる。しかし猫にも同じか、それ以上の声援が送られている。最後の2人(猫、ヨルダンの選手)には日本人以外からも大きな声がかけられていた。
再び地下鉄に乗りゴール地点に戻ると日本人選手がゴールした後だった。そこから待つこと20分、ゴールに人が駆け込まなくなって3分ほど経つと「カンボジ アのタキザーキとヨルダンのメスカルがデットヒートをしています!」とアナウンスされると、大画面に映された猫ひろしとヨルダンの選手。どっと歓声が沸く スタンド。猫は両手を横に広げ、最後の直線を全力でスパートするとさらなる歓声が。
⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1183526
両手を上げ、ついにゴール! ゴールするや、ステップを踏んだり、「猫ポーズ」をして四方の観客にアピールする猫。ふらふらでゴールする選手が多いな か、軽快すぎる身のこなしに多くの観客も大ウケ。「カンボジア!カンボジア!」のコールが飛ぶ中、ゴールラインを逆戻りして、観客に大いにアピールする猫 だった。
取材ゾーンでは、日本人記者のほかに、多数の外国人記者に囲まれていた猫。それを写真に収めていると、記者の隣に「CAMBOSIA」と背中に文字の入ったジャージを着た男性がいた。
「も しかして、猫さんのコーチの方ですか?」と話しかけると、まさにその人だった。「取材エリアからなかなか出てこないなぁ」と嘆きつつも「猫の努力には本当 に感動している。前回のロンドンで出場できなかったから、本人は悔しい思いをした。今回出場できしかも、止まること無く、完走できて私は誇りに思うよ」と 褒めていた。
◆レース直後の猫を直撃
そうこうしているうちに内外の取材攻勢を終えた猫ひろしが記者の元を通過。左足を痛々しくも引きずりながらも、晴れやかな表情で、取材に応じてくれた。以下は一問一答。
――初めてのマラソンを終えていかがでしたか?
猫ひろし(以下猫):とにかく足が止まらずに完走できてよかった。ぜったい止まらないということだけは肝に命じていたのでよかったです
――沿道では日本人の声援も多かったですが、リオの景色を楽しめましたか?
猫:そんな余裕はまったくなかったです。でも日本人を含め、いろんな国の人に応援してもらってその声が本当にありがたかったです。
――30km地点では相当苦しい表情をしていましたが……
猫:足が思うように動かなくて、本当に苦しかったです。
――ゴール後のパフォーマンスが相当ブラジル人にも受けていましたが、手応えは?
猫:まったく予期していなかったんですが、ブラジル人の人たちが「カンボジア!カンボジア!」って盛り上がっていたんで、元日本人の、現カンボジア人の、そしてブラジリアン魂がボクをそうさせてくれましたね。
――外国人記者にはいろいろと質問を受けていましたが?
猫:正直、英語さっぱりわからないんで全部「ハッピー!ハッピー!ベリーハッピー!」って答えました。
その後も観客やスタッフから記念撮影を求められていた猫ひろし。大きな声援をくれたブラジルに猫の恩返しができただろうか。
取材・文・撮影/遠藤修哉(本誌)