日本ボクシング連盟と山根明会長(78)の疑惑は底なしだ。都道府県連盟役員や元選手ら333人が文科省や日本オリンピック委員会(JOC)などに提出した告発状には、実に12もの告発事実が列挙されている。
アスリート助成金の不正流用から試合用グローブの独占販売による利益の中抜き疑惑、山根会長と連盟幹部の日常的な賭け麻雀の実態までスキャンダルのオンパレードだが、中でも当局が問題視しているとされるのが、「審判不正問題」である。
山根会長がレフェリーに圧力をかけ、試合結果を不当に操作していたというのは本当なのか。日刊ゲンダイが現役審判員2人に話を聞くと、信じられない事実が明らかになった。
■意に従わぬ審判を恫喝
一連の騒動で大きな問題になりつつあるのが、公式戦での「奈良判定」だ。山根会長は奈良県の連盟会長を務めていた過去がある。以下、告発状からの抜粋だ。
「山根会長や山根昌守代行(山根会長の息子)が支持した選手や贔屓にしている選手の試合には、山根会長らの指示に従う審判員が配置されるように、意図的に審判担当表を作成していた。仮に山根会長らの指示に従わずに審判を下した審判員に対しては、会場や宿泊先ホテル等で恫喝するなどしたほか、その後の試合で審判をさせない、交通費等を支給せず帰らせる、今後派遣依頼を行わないなどの資格停止に近い措置をとっている」
ある大会で奈良県の選手をレフェリーストップにかけ、負けにした経験を持つ西日本の連盟所属の現役審判員A氏はこう話す。
「試合は奈良県の選手が明らかに劣勢でした。このままだと選手の健康にも関わると思って、ストップをかけました。すると試合後、山根会長に『おまえのレフェリングはおかしい!』『なんで負けになるんだよ!』と怒鳴られた。会長に反発する立場ではなかったので、ひたすら『すいません、すいません』と謝るしかなかった。私は直接、『奈良の選手に勝たせろ』と指示を受けたことはありませんが、明らかに周囲の雰囲気でそれはわかりました。奈良の選手が負けると、会長の機嫌が目に見えて悪くなり、翌日のミーティングでは普段より熱を入れて審判を叱咤していましたから」
別の現役審判員B氏も「私もその試合の現場にいましたが、あれはストップをかけて当然」と証言する。
このA審判は会長に嫌われたのか、現在は主要な大会には呼ばれなくなったという。
■奈良の選手を負けにした審判に「帰れ!」
山根会長が肩入れするのは、出身県の選手だけではない。仲のいい指導者の教え子や、日本ボクシング連盟の強化選手にも、えこひいきが顕著だった。「山根会長が11年に現職に就任してからは、強化選手に奈良県出身の選手が増えた印象がある。確かに強い選手は多いが、それにしても……という気はしていた」とは、A審判だ。
B審判は自戒も込めて、こう話す。
「他にも山根会長が審判を恫喝する場面を見たことがある。奈良の選手を負けにした審判は、試合直後に『帰れ!』と一喝されて、本当に帰らされていた。私は会長が過剰に接待されるさまや、パワハラも目の前で見てきた。それでも私自身、会長には恩義があるし、尊敬している面もある。だからなのか、最初は『こんなのおかしい』と思っていた気持ちが、次第にマヒしてしまった。でも、現在の日本ボクシング連盟は高体連との確執もあり、このままだとボクシング競技がインターハイから外されかねない。それはボクシングをやる子供たちにとっても、大きなマイナス。だから告発に踏み切りました」
そもそも、「奈良判定」は選手のためにもならない。前出のA審判が言う。
「問題は大学など、次のステップに進んだときです。高校時代に負けなしだった奈良の選手が、大学ではポロポロ負けるケースは珍しくない。全国大会などはともかく、各地のリーグ戦までは山根会長の目は届きませんからね。選手も高いゲタを履かされた上に、結果を出せないと周囲に失望される。これでは奈良の選手がかわいそうだし、何より奈良の選手と戦う別の高校生も哀れです」
■「ヒヨッコだから自腹で参加しろ」
山根会長が審判に強要していたのは不正なジャッジだけではない。A審判が証言する。
「私がA級審判になったあと、ある県で審判講習会が行われた。その前に山根会長から電話がかかってきたんです。『まだ(A級審判として)ヒヨッコだから、参加するなら自腹で来い』と言われ、『それでも来るのか?』と。初めての講習会なので勉強のためにも参加しましたが、交通費や決められていたホテルの宿泊費などで20万円は自腹を切りました。その後も国体や全日本選手権なども、無給の上に費用は自分持ち。交通費だけは出す、宿泊費だけは出す、といったケースもあった。持ち出し総額? 50万円くらいですね」
この自腹強要も、審判によってまちまち。ある者は最初から費用は全額連盟持ちのケースもあれば、別の者はA審判同様に自腹を強制された。
日本ボクシング連盟はホームページで「告発状は事実と異なる部分が多い」と、火消しに躍起になっている。一方、ロンドン五輪金メダリストで、かつて「アマの星」だったプロボクサー・村田諒太は自身のフェイスブックを更新。今回の騒動について、「そろそろ潔く辞めましょう、悪しき古き人間達、もうそういう時代じゃありません」と記している。
この「悪しき古き人間」が誰を指すのか。少なくとも山根会長は歯ぎしりしているに違いない。