理事総辞職、山根無きボクシング連盟の苦難 東京五輪に出場できるか否かの「瀬戸際」に

8月22日、一般社団法人日本ボクシング連盟はホームページで理事総辞職を公表した。

「今般の諸々の不祥事に鑑み、日本連盟の理事は全て辞任することを話しあっておりましたが、今日現在すべての理事について、辞任届の書面を受領するか、ファックスその他の方法により辞任の意思を確認しました」(HPより)という。

8月8日に山根明氏(78)が連盟の会長及び理事を辞任することを表明してから2週間後、理事総辞職という形で日本ボクシング連盟は事実上の解体となった。

日本ボクシング連盟の後任の会長と理事は9月8日の臨時総会で決定することになった。それまでは森正耕太郎会長代行と吉森照夫専務理事を中心に運営が行われる。

理事総辞職に至るまでの顛末

事の発端を改めて振り返る。

山根氏は長年に渡り「公式グローブの不透明な販売方法や利益詐取疑惑」「不正判定の操作」「不正会計処理」などに関わってきたという数々の不正疑惑が告発され、辞任に追いこまれた。

告発したのは「日本ボクシングを再興する会」(以下、再興する会)だ。

再興する会は4月、「国体競技の復活」「選抜の開催」「オリンピック競技への確実な参加」「選手ファースト」の4つを主な目的として結成された。会長には新潟県ボクシング連盟理事長の鶴木良夫氏(68)が就任した。

再興する会は山根会長に対して数々の疑惑もあり、退会要求をしてきたが、話は一向に進まなかった。そのためJOC(日本オリンピック委員会)に一連の問題について報告した。

7月27日、日本ボクシングを再興する会はJOC、内閣府公益認定等委員会、日本スポーツ協会、文部科学省、スポーツ庁、日本スポーツ振興センター(JSC)等に対して、日本ボクシング連盟における数々の不正に関する告発状を送付した。各都道府県ボクシング連盟の役員、大学、全国高等学校体育連盟(高体連)、元オリンピック選手など、告発者は333人に達した。

告発内容は、「助成金の不正流用」「試合用グローブ等の不透明な独占販売」「不透明な財務運営」「審判不正判定」「不適切な理事の選任」「山根会長の暴行疑惑」「国民体育大会の隔年実施競技への格下げ」などの12項目にわたる。

告発状の中で日本ボクシング連盟が認め、謝罪したのは「助成金の不正流用」についてだ。

リオオリンピックにライト級で出場した成松大介選手(28)に対して、JSCは2015年に助成金240万円を交付した。だが、日本ボクシング連盟幹部からの強い要請があり、3等分をして他の2選手に80万円ずつ渡していたことが成松選手の証言から発覚した。これは助成金の不正流用となり、日本ボクシング連盟はこの事実を認めJSCに謝罪している。

第三者委員会が設けられた経緯

日本ボクシング連盟は、管理運営に適正さを欠いていることはこの不正からも分かる。JOCの加盟団体規程第15条にあるように、日本ボクシング連盟は助成金の支給停止や減額の処分を逃れることはできないだろう。この危機的状況が改善されずに、資格停止や除名となれば、ボクシング日本代表は2020年の東京オリンピックに出場できなくなってしまうおそれもあった。

このような経緯もありJOCの竹田恒和会長は、疑惑だらけの日本ボクシング連盟に早急にガバナンスの立て直しを行うように指示をした。これに対して日本ボクシング連盟は、8月20日に疑惑調査をする第三者委員会を設置した。

スポーツ団体内で不祥事が発覚した場合、迅速な事実関係の把握が求められ、不祥事に関わる人物から聴取調査を行うのが通常の流れだ。

だが今回の日本ボクシング連盟の騒動のように、数多くの疑惑がある山根氏に対して同連盟の役員らが調査を行ったとしても、公正・中立な調査結果を得ることは期待できない。

そこで、JOCと日本スポーツ協会は、弁護士等の外部の有識者で構成された第三者委員会を設置して関与調査を行うことを同連盟に提案していた。

調査する第三者委員会のメンバーは、元日本弁護士連合会(日弁連)会長の梶谷剛氏が委員長に就任し、弁護士の板橋喜彦氏と若林直子氏、元警視庁刑事の大場良明氏の4人で構成されている。第三者委員会は、28日までに調査結果と今後の組織運営についてJOCと日本スポーツ協会へ文書で報告する予定となっている。この4人で分担しながら調査を進めていくことになる。

第三者委員会の主な調査内容は、「試合用グローブ等の不透明な独占販売」「不透明な財務運営」「審判不正判定」などについてとなり、日弁連の第三者委員会ガイドラインに基づいて公平な立場で行われるようだ。

第三者委員会による調査結果と、再興する会の告発内容が同じであれば、日本ボクシング連盟と山根氏に対する処分は非常に厳しいものとなる。その場合、同連盟の存続問題へと発展することも避けられないだろう。

ボクシングは東京五輪で開催されるのか

告発状を受理した各所は告発項目にある事実関係について分析をし、JOCと共に日本ボクシング連盟に改善策を提言していくことになるだろう。

2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本は開催国として大会が円滑に開催されるように着々と準備を進めている段階にある。

そんな中でボクシング日本代表が東京オリンピックに出場できなくなったり、競技自体が実施されないことになれば、アマチュアボクシング界の存続問題へと発展しかねない。

山根氏は8日の辞任会見で「東京オリンピックに参加できなくても、次のオリンピックを目指して頑張ってください」と発言し物議を醸した。

すでに、関西連盟と奈良県連盟の役員と会員からも退いており、アマチュアボクシング界から完全に身を引いたことになる。だが、告発してきた再興する会に対しては「対抗措置を取る」と、徹底抗戦の構えをみせており、完全に山根氏の影響がなくなったとは言いがたい状況にある。

今後の動きとしては9月8日に都内で開かれる、都道府県ボクシング連盟を集めた臨時総会で新たな会長と理事を選任する。その後、健全で公正な運営を行い、JOCに東京オリンピック競技実施団体として認められることが絶対条件だ。

東京オリンピックまで既に2年を切っている中、今後の日本ボクシング連盟の前途には暗雲が漂っている。

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