理由は「高性能すぎる」 新型車両開発中止

世界初の新技術を搭載する高性能車両
 2014年9月10日(水)、JR北海道は新型特急車両キハ285系の開発を中止すると発表しました。なぜそうなってしまったのか、その大きな理由としてキハ285系が「高性能すぎる新型車両」なことが挙げられます。
 鉄道車両には、カーブで車体を内側に傾けることで遠心力を軽減し、乗り心地を落とすことなく高速でカーブを通過可能にする装置があります。ごく簡単に表すなら、車体を傾けてカーブを曲がるバイクがイメージに近いでしょうか。
 そのように鉄道で車体を傾斜させるシステムには「振り子装置」と「車体傾斜装置」という2種類のシステムがあり、車体の傾斜が可能な車両は、そのどちらかを搭載しています。
 この「車体を傾けること」において新型のキハ285系は非常に意欲的な車両で、世界で初めて「振り子装置」と「車体傾斜装置」の両方を搭載。その「複合車体傾斜システム」によって車体をより多く傾斜できるようになり、さらに高い速度でカーブを通過。所要時間を短縮することが可能なのです。
 しかしそうした「高性能」が「あだ」になりました。
理由は「高性能すぎる」 新型車両開発中止
開発中止のキハ285系。すでに3両が製造中で、その3両はいわゆる「ドクターイエロー」として使うことが考えられている(資料:JR北海道)。
「高性能」で失うもの
 まず前提として、JR北海道では近年、車両トラブルや線路計測データの改ざんなど、鉄道運行で最も重要な安全性に関わる不祥事が続出。「安全対策」を最優先で行っている最中である、という現状があります。そのため列車の速度についても、従来は最高130km/h運転を行っていた列車を120km/h以下に減速するなど、安全性を高めるためにスピードダウンせざるを得ない状況です。
 そして「複合車体傾斜システム」など新技術を採用し、高い性能を持つ新型のキハ285系は、その導入により所要時間の短縮といったメリットがありますが、合わせて次のようなデメリットがあると思われます。
・高度な新技術の搭載による車両製造コストの増大
・複雑な車両構造によるメンテナンスコストの増大
・新技術の導入による信頼性の問題
・スピードアップで線路に与えるダメージが大きくなり線路保守コストが増大
・これらに十分なコストをかけられないと安全性が低下する
 つまり新型のキハ285系は新技術の導入により高い性能を持つものの、それゆえコストや信頼性についてデメリットがいくつも存在。「安全対策」を最優先するJR北海道の現状を考えると、そのデメリット解消に金銭的、人的、時間的コストをかけられる状況ではないため、開発を中止せざるを得ないのです。最高速度の減速を行っている現状では、その性能を活かすこともできません。
 JR北海道は開発が中止された新型のキハ285系の代わりに、性能は落ちるものの2000(平成12)年から使用され安定した実績を持つキハ261系を製造するとしています。「高性能」より「無難」を取った形です。
 また新型のキハ285系には「MA(モータ・アシスト)ハイブリッド駆動システム」という、ディーゼルエンジンと電気モーター、バッテリーなどを組み合わせた動力性能や燃費に効果がある駆動装置が初めて搭載されます。しかしこの装置についても、同様にコストや信頼性の面でデメリットが考えられます。
 ただ新技術の開発、導入にあたってそうしたデメリットは当然のことであり、それを乗り越えて進化していくものです。言い換えれば、安全関係の諸問題でその当たり前ができないのがJR北海道の現状、といえるのかもしれません。
 JR北海道にとって「安全対策」の次に優先されるのは、2015年度に新青森~新函館北斗間が開業し、その後の札幌延伸が予定されている「北海道新幹線」です。安全対策が進み、新幹線の運行が安定して行われるようになれば、開発が中止されたキハ285系の新技術が日の目を見ることもあるのでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました