琵琶湖の“厄介者”が堆肥に 外来水草で「一石三鳥」の効果

琵琶湖で増殖し、生態系に影響を及ぼす外来の水生植物「オオバナミズキンバイ」を原料とした堆肥の製造に、立命館大の久保幹(もとき)教授(環境微生物学)が成功した。堆肥は良質で栄養価が高く、既存の化学肥料で栽培するより野菜の成育がよくなることを確認。本来は厄介者の水草が思わぬ“財産”となる形で、生態系の保護のほか、沿岸の環境改善、除去・処分費用の削減という「一石三鳥」の効果を生むとして実用化に期待がかかる。
 ■驚異の生命力
 琵琶湖のオオバナミズキンバイは、南東部の滋賀県守山市の赤野井湾で平成21年に初めて確認された。もともとは水辺に捨てるなどされたとみられるが、ちぎれた茎からも根が出るほど生命力が極めて高く、猛暑だった昨夏は茎が1日で3センチも伸びたという。
 初確認後、豪雨や強風のたびに水流に乗るなどして分布域が爆発的に拡大。21年12月時点で140平方メートルだった生育面積は、4年間で約460倍の6万4800平方メートルに増えた。
 琵琶湖固有魚の産卵場所に繁茂して繁殖を妨げたり、太陽光を遮断して水中植物の成長の妨げになったりする恐れがあるほか、漁船の往来の邪魔になり漁業にも影響を及ぼしている。漁協やNPO団体が除去する一方、滋賀県や守山市などは今年度、対策協議会を設置。国は6月までに、生態系に害を及ぼす恐れのある外来種として「特定外来生物」に指定する見込みだ。
 ■官学連携で新アイデア
 除去したオオバナミズキンバイは産業廃棄物として扱われ、自治体が経費をかけて処分している。その中で、有効な活用法を探っていた守山市は、琵琶湖周辺でかつて水草を畑に敷いて肥料にしていたことに着目。昨年夏、久保教授に「肥料に転用できないか」とアイデアを持ちかけた。
 久保教授は、オオバナミズキンバイを3カ月間かけて乾燥、発酵させ、細かく粉砕。成分を分析したところ、肥料として必要な物質の窒素とリン酸、カリウムを多く含んでいることが分かった。これに米ぬかを混合して出来上がった堆肥を使ってコマツナを温室栽培したところ、既存の化学肥料に比べ、重さレベルで生育が1割アップしたことが確認された。
 ■広がる夢
 守山市は今年度、この堆肥を使って露地栽培で野菜を育て、生育状況や安全性、出来栄えなどの実証調査を行う方針。問題がなければ商品化を目指す。
 生産態勢や販路が確立されれば堆肥の売却益が見込め、オオバナミズキンバイの除去費用に充てることも考えられる。原料として活用が増えれば除去が進み、生態系の保全につながる。
 久保教授は「化学肥料の原料となる原油やリン鉱石などは現在、ほぼ100%輸入に頼っている。厄介者扱いのオオバナミズキンバイが良質な肥料の原料となり、将来的に、日本の食料自給率の向上にも貢献できればうれしい」と話している。
 琵琶湖では近年、貴重な固有種の魚が外来魚に食い荒らされるなどして激減しており、オオバナミズキンバイの繁殖が、こうした傾向に追い打ちをかけることも心配される。生態系を守ろうと、滋賀県内では官民が協調して外来種を減らす取り組みが進んでいる。
 ブラックバスやブルーギルは、もともと釣り目的で持ち込まれたとみられ、昭和40年代以降、急速に増殖。県によると、琵琶湖に生息する外来魚は平成24年4月時点で1295トンにのぼると推定される。
 一方、ふなずしの原料となるニゴロブナの漁獲量は、24年には48トンで、昭和40年頃の1割弱に減少。ホンモロコは平成6年ごろまで200~400トン程度で推移していたが、16~19年には10トン未満になった。
 こうした傾向に歯止めをかけようと、県は14年度に捕獲量に応じて補助金を出す制度を設け、駆除を促進。ここ数年は、年間300~400トンが駆除されていたが、昨年は台風18号の影響などで150トン程度にとどまった。
 捕獲したブラックバスやブルーギルは、ご当地バーガーや天ぷら料理の具材に使用。県内各地の飲食店や施設で、食材としての活用が進んでいる。
 【オオバナミズキンバイ】 中南米原産のアカバナ科の水草。浅瀬や水辺の陸地に生え、夏場は特に成長が盛んになる。国内では平成19年に兵庫県加西市で初めて確認された。ペット用の熱帯魚が輸入される際、一緒に持ち込まれたとみられる。国内で古くからみられる「ミズキンバイ」と同じ仲間であることが名前の由来だが、ミズキンバイは環境省のレッドリストで絶滅危惧II類になっている。

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