ごみ焼却工場で生じる熱エネルギーを特殊な甘味料に蓄え、熱輸送車で配送する新しいエネルギー供給システムの構築に、大阪市や大阪ガスなどが乗り出す。東京電力福島第1原発事故で新たなエネルギー源の確保に迫られる中、事業所や一般家庭に給湯や空調のエネルギーを供給できるほか、停電などの非常時にも避難所に素早くエネルギーを届けることが可能になる。自治体や大手企業が連携した大規模な試みで、国も実証事業の予算を補助する方針を決定、その成果に注目している。
大阪市では現在、大正区の「大正工場」で、ごみを燃やした際の熱で高温の蒸気を発生させ、タービンで発電するエネルギーの再利用に取り組んでいるが、今回の実証事業では、市と大阪府、大阪ガス、川崎重工業が参画。市は大正工場を実験場として提供する。実証実験は平成25年度までの3カ年計画で実施する。
計画では、大正工場で生じる高温蒸気を工場内に新設する熱交換装置に送り、タンクローリー車のような熱輸送車のタンク部分に熱エネルギーを蓄積する。タンク内には、甘味料の一種「エリスリトール」を積載。この甘味料は約120度の高温で固体状から液体状に変化し、同じ体積の水に比べ約4倍の熱エネルギーを蓄積できるという。この甘味料を使ったエネルギーの輸送技術はすでに開発されているが、大阪市などは、この技術を大規模に実用化することを検討。事業所や一般家庭、市営プール、学校などに配送することを想定しており、配送先の熱交換装置でエネルギーを取り出し給湯器やプール用の湯を沸かしたり、冷暖房に利用したりする。
大阪ガスによると、4トン車の熱輸送車で一般家庭40軒分の1日の熱エネルギーを供給できるという。
熱交換装置は家庭に設置できる小型のものもある一方で、大型のものを震災時に避難所となる学校などに備えておけば、停電時などにも熱エネルギーの大量供給が可能になる。
市によると、自治体のごみ焼却工場で生じる大規模な熱エネルギーと、甘味料を使った熱輸送車の配送を組み合わせる試みは例がなく、経済産業省は今回の実証事業を、次世代エネルギーの技術開発を促す補助事業対象に決定。総事業費約8億円の半額が補助される見通し。
大阪市は「熱エネルギーの配送が実用化できれば、エネルギーの“地産地消”となるだけでなく、節電や停電などの非常事態には貴重なエネルギー源の確保にもつながる」と期待している。