生キャラメル:原発事故後売り上げ10倍 福島から逃げず

福島県大玉村の電子部品メーカー「向山製作所」が作るキャラメルが、東京電力福島第1原発事故後、売り上げを大きく伸ばしている。航空会社の機内食に選ばれた直後に起きた原発事故で、一時は出荷停止に追い込まれたが、「福島」のブランドにこだわり続け、売り上げは事故前の10倍になった。来春までに工場と店舗兼カフェを新設する。社長の織田金也さん(52)は「原発事故を乗り越えたキャラメル。この味を守り続けたい」と話す。

部品工場が開発、福島産の牛乳使い

口に入れると、まろやかな甘さが広がり、バターのように溶ける--。「向山製作所の生キャラメル」は、福島・仙台駅の商業施設などで観光・帰省客らから人気を集める。

同社は携帯電話のディスプレー製造などを請け負っていたが、受注が景気に左右される悩みを抱えていた。「何か独自製品を」と模索していた織田さんは、東京の百貨店のスイーツコーナーに立ち寄った際、人気商品の多くが地方で作られていることに気付いた。

「これなら福島でも勝負できる」。織田さんは鍋一つで作れるキャラメルを新商品に選ぶ。栄養士の資格を持った女性従業員に開発を1年間任せ、2009年春に販売を始めた。

福島生まれの織田さん。「地元の新鮮な食材を使うのが最高のおもてなし」と考え、牛乳などの主材料は福島産にこだわり、率先して販売した。評判は口コミで広がり、11年3月に大手航空会社の国際線ファーストクラスのお茶請けにも採用。その直後、震災と原発事故に見舞われた。

県産原乳から暫定規制値を超える放射性物質が検出され、材料がなく生産がストップした。それでも震災2カ月後には、東京・銀座の百貨店であった販売会に出店できた。琥珀(こはく)色のキャラメルを口にした女性から笑みがこぼれた。「おいしい。どこから来たの」。尋ねられた織田さんが「福島です」と答えると「どうして早く言わないの」と吐き出した。風評が立ちはだかり、ブースに売れ残りの箱が積み上がった。

向山製作所の生キャラメル=高井瞳撮影 © 毎日新聞 向山製作所の生キャラメル=高井瞳撮影

誇りにしている「福島」を口にするのが怖くなった。「どこから来たの」という質問に、一度だけ「うちは無添加で、全部手作り」とごまかしたことがある。震災後、自宅の片付けも済まないうちにキャラメルを作ってくれた従業員の顔が頭に浮かび、すぐに「福島です」と言い直した。「福島から逃げちゃだめだ」と腹を決めた。

販売会で全国を巡ってPRした。同県の民芸品・赤べこを置いたブースの前で「福島から来たお菓子です」と試食品を渡した。やっぱり嫌な顔をする人もいる。一方で、地元へのこだわりを聞いて「福島土産にしたい」と、買う人も徐々に増えていった。

原発事故前は一つしかなかった店舗は7店舗に増え、キャラメル部門の売り上げは会社全体の半分を占めるようになった。「これからの復興に大切なのは人が実際に来て福島を知ること。このキャラメルを食べ、私たちの物語を知るため、ぜひ福島に足を運んでほしい」と織田さん。100年後も愛される味を作るつもりだ。【高井瞳】

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