世界遺産への登録という日本の祝賀ムードに水を差す、韓国政府の 執拗 な政治工作だった。
「明治日本の産業革命遺産」が、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されることが、ドイツで開かれた世界遺産委員会で正式に決まった。
遺産は、19世紀半ばから20世紀初頭の製鉄・製鋼、造船、石炭産業の拠点が中心である。福岡県の官営八幡製鉄所や、「軍艦島」と呼ばれる長崎県の端島炭坑など、8県の23資産で構成される。世界に誇り得る遺産と言えよう。
残念だったのは、韓国政府が日本の遺産に関する「負の側面」を過剰に演出したことだ。
韓国は当初、大戦中に一部施設で朝鮮人労働者が徴用されていたとして登録に反対したが、6月の日韓外相会談で方針転換し、日本と協力することで合意した。
ところが、その後、韓国が委員会で、徴用について「『強制労働』だったと日本が認めた」との発言案を準備したことが判明した。施設を奴隷輸出港になぞらえる文言もあった。このため、日本側が抗議し、事前調整は難航した。
韓国は、徴用が「強制労働」であるかのような国際的な宣伝に力点を移したのだろう。文化財保護を目的とする場で、歴史問題での自国の立場強化を狙うのは、筋違いなロビー外交である。
日本が内地や朝鮮半島などで実施した徴用は、国民徴用令に基づき、国民全般が対象だった。多数の朝鮮人労働者が内地へ動員されたのは事実だが、国際法に反する「強制労働」とは異なる。
日本は委員会の声明で、徴用に関して「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者らがいた」と指摘した。韓国側に譲歩しつつ、「強制労働」とは一線を画する表現で折り合ったつもりだった。
だが、韓国の尹炳世外相は、これを逆手に取って「日本政府が『強制労役』があったと発表した」と語り、韓国紙も大きく報じた。結果的に、徴用の表現を巡って韓国にゴネ得を許し、日韓対立に火種を残したことは否めない。
1965年の請求権協定で、元徴用工を含めた請求権問題は法的に解決済みだ。韓国は、請求権問題に関連して日本の声明を利用しない、と伝えてきている。この問題を蒸し返すことはないのか。
今回の騒動で、日本国内の「嫌韓」感情はさらに高まった。日韓関係改善の機運にも、冷や水が浴びせられたのは間違いない。