田中が大リーグ挑戦 東北楽天移籍容認、新ポスティング申請

プロ野球東北楽天は25日、田中将大投手(25)の新ポスティングシステムでの米大リーグ移籍を容認すると発表した。同日、2000万ドル(約20億8000万円)を上限に譲渡額を設定し、日本野球機構(NPB)を通じて申請の手続きを取った。10球団以上が獲得に乗り出すとみられ、早ければ米東部時間26日午前8時(日本時間26日午後10時)から30日間、交渉が可能になる。
 立花陽三球団社長は25日、仙台市内の球団事務所で田中と会談後、「新システムには多くの問題があるが、入団以来7年間の貢献を高く評価した。三木谷浩史オーナーが容認した」と説明した。
 NPBと米大リーグ機構(MLB)との間で新制度が発効したことを受け、立花社長と田中は17日に最初の会談を行った。球団は日本一連覇へ不可欠な存在として残留を要請したが、田中は大リーグ挑戦の意向を伝え、結論は持ち越された。
 田中が自由に海外の球団に移籍できるフリーエージェント(FA)資格を取得するのは順調でも2015年オフで、今オフに移籍するには球団の同意を得てポスティング制度を利用する必要があった。球団側はこれまで、「新システムはアンフェア。FAに近い」などとし、移籍容認は困難との見解を示していた。
 田中は今季24勝0敗1セーブ、防御率1.27の驚異的な成績で、チームを創設9年目での初のパ・リーグ優勝と日本一に導いた。
◎球団、苦渋の決断
 球団にとっては苦渋の決断だった。田中と約40分の交渉を終えた立花球団社長は「きょうも(来季)残ってほしいと伝えた。本当に複雑な気持ち」と厳しい表情だった。
 新ポスティングシステムの最大の障壁は譲渡金2000万ドル(約20億8000万円)の上限設定。米メディアの中には入札制だった旧制度であれば、田中の相場は1億ドルとの観測もあった。球団には田中という無二の金看板を失う見返りが一方的に抑えられることに、抵抗があった。
 さらに、来季は戦力面やチームとしての魅力の低下が避けられないことで、広告収入やチケット販売といった球団経営面でのマイナスが予想される。価値に見合わない金額ではスポンサーやファンなどの利害関係者に説明がつかないという事情があり、球団内には「今回は見送るべきだ」という反対論が根強かった。
 立花社長も「新制度は多くの問題がある。大切な選手を保有する球団として、極めて不平等なシステムというのは変わらない」と話し、完全に納得したわけではないと強調している。
 それではなぜ、容認したのか。24日夜に立花社長と話し合った三木谷オーナーが「メジャー挑戦を後押ししよう」と判断、これが決定打となった。譲渡金の問題でメジャー挑戦を先送りしては、球団はもちろん、親会社の楽天の企業イメージも損ないかねない。7年間、チームの中心として活躍し、球団創設9年目でのリーグ優勝、日本一に導いた右腕の熱意を最終的には優先させた。
 曲折を経た容認だったが、球団には同情すべき点がある。旧制度が昨年末に失効していたにもかかわらず、日本野球機構(NPB)と米大リーグ機構(MLB)との間で新制度が発効したのが今月17日。しかも2月1日までの申請期限内に、先例のない制度の行使の判断を迫られた。
 「これで本当にいいのかという疑問は今でも残っている。新制度を経験する中で、問題提起していくこともあり得る」とは立花社長。今後も田中のような日本を代表する選手が新制度を利用する可能性はある。その評価に上限を設ける現行制度は、日本のプロ野球の価値を考える上でも再考の余地がある。(解説=スポーツ部・中村紳哉)
<「また一歩前に進んだ」/田中将大投手の話>
 球団には感謝の気持ちでいっぱい。また一歩前に進んだ。(待っている間は)不安はなかった。何も考えていなかった。(楽天での)7年間はチーム、ファンに支えられてきた。そこが基盤。ここでやったことを胸にしっかり刻み込んで、これからも野球を続けていく。
<田中将大(たなか・まさひろ)>北海道・駒大苫小牧高から07年に高校生ドラフト1巡目で東北楽天に入団。1年目に11勝を挙げて球団初の2桁勝利投手となり新人王に選ばれた。08年北京五輪、09、13年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表。今季は開幕から24連勝を飾り、連続シーズンでも28連勝とプロ野球記録を更新。史上初の無敗での最多勝投手となった。今季は2年ぶりの最多勝や沢村賞などを獲得し、リーグMVPも初受賞した。188センチ、93キロ、右投げ右打ち。25歳。兵庫県出身。

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