これまで、スキンケア商品中心に伸びてきた男性用コスメ市場だが、ここにきて、とうとう「男性用メイク用品」が世に出始めた。ファンデーションはもちろん、ネイルカラーまで用意したポーラ・オルビスグループは「世界初の男性用総合コスメブランド」と胸を張り、あのシャネルも男性用メイク商品を初めて発売。2019年にはさらなる参入も相次ぐ見通しで、市場は一気に広がる可能性が高いが、果たして需要は本当にあるのか…?
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● 年々成長する 男性コスメ市場
化粧品は女性のもの――。そんな常識が昨今、崩れようとしている。調査会社の富士経済によると、男性コスメ市場は2018年(見込み)が1175億円と、年々成長している。
特に著しく伸びているのが、「基礎化粧品」と呼ばれる分野に含まれるスキンケア商品だ。2007年と比べ、2017年は化粧水が約1.5倍、乳液が約1.4倍と急拡大している。牽引しているのは若年層と思いきや、年代別構成比で見ると、20代や30代はむしろ縮んでおり、大きく伸びているのは意外にも40代だ。
「40歳からの」とうたい、ターゲットを中高年男性にあえて絞ったマンダムの化粧品「ルシード」もスキンケア商品が好調で、2012年と比較して、2017年はブランド全体の売り上げが2倍に膨れ上がったほどだ。
“美肌志向”に傾注する40代男性が増えている大きな要因の一つが、“ウーマノミクス”に代表される女性の社会進出の加速だろう。国の政策で後押しする第2次安倍政権のスタートと共に、ルシードの売り上げも勢いよく伸びている。「40代はマネージャー世代。部下や上司、取引先で女性が増える中、見られる意識が底上げされている」と、マンダム広報部主任の奥啓輔氏は話す。
● 40男がスキンケアに走る 理由はどこにあるのか?
別の見方もある。40~44歳の40代前半組はいわゆるロスジェネ世代で、バブル崩壊後の就職氷河期に社会に出て割を食った年代。入社後も厳しい環境や評価に直面してきている。マンダムの調査によると、40代前半組は全年代の中で「自分たちが最も頼られている」と7割以上が意識する一方で、「会社からの評価に不満」(約56%)、「現在の給料に不満」(約65%)と考え、3割余りが「他に良いところがあれば、いつでも転職する」と答えている。
そうしてキャリアへの危機感や不満が募る中、力を注ぐのが自分磨きだ。同調査では自分の価値を上げる「セルフブランディング」を40代前半組の約92%が「必要」と答え、全年代平均よりも高くなった。そのうち身だしなみについては、「服装・ファッションに気を使う」(35.3%)よりも「体臭に気を付ける」(37.9%)が高く、「ヘアスタイルを変える」(6.8%)よりも「スキンケア」(18.9%)が高い。
つまり、手軽に装ったり繕ったりするよりも、体そのものをケアする意識が強いのだ。こうしたロスジェネ世代特有の価値観が、基礎化粧品の購入に結びついているのだろう。
45~49歳の男性40代後半組はどうか。実はこの年代もスキンケアが必要な理由がある。40代後半は“肌負債”とも言える、長年蓄積されてきたダメージが顕在化してくる、男性にとってのお肌の曲がり角。肌のくすみ、小じわ、テカリなどもより目立つようになる。さらに問題なのが、40代後半は最後のバブル世代という点だ。
「ドリンク剤のテレビCMのフレーズ『24時間戦えますか?』を地で行くようにがむしゃらに働く一方で、夜遊びもスキーなどのレジャーもとことん楽しんできた世代。若い頃の肌ダメージは他の年代より大きい可能性がある」と、マンダムの奥氏は分析する。40代男性は、前半組が主に心理的に、後半組が物理的に肌ケアの意識が高くなり、合算された結果、スキンケア商品のボリューム層になっているわけだ。
● ファンデーションからネイルまで 世界初の総合コスメブランドが誕生
基礎化粧品にとどまらず、本格的な男性用メイクアップ化粧品を展開する動きも始まっている。化粧品大手、ポーラ・オルビスグループの子会社ACRO(アクロ)が提供する「FIVEISM×THREE(ファイブイズム バイ スリー)」だ。ACRO会長の石橋寧(やすし)氏が2009年に立ち上げ、主に植物由来の国産原料を配合した女性向け化粧品ブランド「THREE」の特徴を受け継ぐ男性用総合コスメブランドとして、今年9月に登場した。
第1弾として、15色のファンデーションをはじめ、コンシーラーやアイシャドウ、アイブロウ、リップ、ネイルカラー、クレンジングなど計60品をラインアップした。「従来、アイブロウやBBクリームなど単品の男性用メイク化粧品はあったが、ここまで本格的に取り揃えている例はどこにもなく、“世界初”の男性用総合コスメブランド」と、石橋氏は豪語する。
ファンデーションやコンシーラーは、「バー」と呼ばれるスティックタイプにして、男性が剃刀で髭を剃ったりする時と同じ動きで、違和感なく塗れるように工夫。外装は男性の手に持ちやすい大きめのサイズで、色は男性的なライトグレー。塗った後の仕上がりがさらっとして見た目が重たくならず、化粧崩れもしにくい。商品設計の全てにおいて、男性が使うシーンに配慮して作られているのが大きな特徴だ。
「スティック状なので携行にも便利。例えば、コンシーラーで大事な打ち合わせやプレゼンの前にシミやクマに塗って隠したり、年齢と共に黒ずんできた肌を明るくきれいに見せたりすることもできる。アイブロウで眉毛をちょっと足すなども可能。こうして男性が身だしなみを整える『マナーとしてのメイク』という新しい文化を定着させていきたい」(石橋氏)。
当初は伊勢丹新宿店メンズ館、阪急メンズ東京、阪急メンズ大阪の3か所で販売開始。阪急メンズ大阪にはカウンターを設け、女性と男性スタッフによるカウンセリングを行うなど、女性向け化粧品に引けを取らない態勢を整えた。さらに11月には東京の丸の内エリアに路面店を開業。丸の内界隈のエリートビジネスマンに狙いを定めた。
● 2019年春から男性用メイク市場は 一気に広がる気配
「FIVEISM×THREE」と同時期に、実はシャネルも男性用メイクアップ化粧品を、同ブランドの歴史上初めて投入している。それが、「BOY
DE CHANEL(ボーイ ドゥ
シャネル)」で、ファンデーション4色とリップクリーム、アイブロウ3色の計8品で「総合」とは言えないものの、存在感を示している。9月に韓国で発売を開始し、日本では11月に公式サイトでオンライン販売をスタートさせた。2019年1月からは限定店舗で取り扱いを始めると言う。
2019年春からは、フランス系、アメリカ系の大手が男性メイク化粧品市場に参入すると言われており、そうなると市場は一気に広がる可能性がある。そうした中、「FIVEISM×THREE」は、12月に男性用の新しいスキンケア商品やシャンプーの販売も開始。「我々は日本人とアジア人の肌を知り尽くしている。勝算はある」(石橋氏)。
今までスキンケアをしてきた男性が、メイク化粧品の領域に手を出すかどうかは予断を許さない。ただ、自分磨きと肌の衰えに敏感な40代が、メイク化粧品の中心的なターゲットになることは十分考えられる。いずれにせよ、今後職場でますます女性が増えることが予想される中、「男は中身で勝負」とばかり言っていられなくなり、来年以降も男性化粧品市場の拡大は続きそうだ。