医師や患者ら5人が新型コロナウイルスに感染していることが確認された「済生会有田病院」のある和歌山県湯浅町で、風評被害を懸念する声が高まっている。観光客の宿泊キャンセルに加え、町の「ふるさと納税」の返礼品の受け取りを拒否する動きもあるといい、16日に記者会見した仁坂吉伸知事は「ナンセンス。怒りを感じる」と述べた。
◇和歌山知事「ナンセンス」
熊野古道の宿場町として栄えた湯浅町は国内の「しょうゆ発祥の地」としてPRしている。100年以上前に建てられたしょうゆの醸造蔵や家屋などが軒を連ねる町中心部は、国の「重要伝統的建造物群保存地区」となっており、年間約50万人の観光客が訪れる。特に中国人に人気が高く、町によると2019年1~2月に町に宿泊した外国人旅行客1532人のうち、1494人が中国からの客だった。
ところが今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、中国人団体客が減少。さらに2月になって有田病院の医師や患者らの感染が確認された。
町によると感染発覚以降、「不安なので情報を知りたい」「そちらに行こうと思っているが大丈夫か」など数十件の相談が寄せられた。中には、町がふるさと納税の返礼品として用意していた特産のミカンやシラスなどを「キャンセルできないか」と連絡してきた人もいたという。
町内のある宿泊施設では、有田病院での感染が発覚して以降、約400人が2~3月の宿泊や宴会場の使用をキャンセルした。客室などに感染予防のためのアルコールを設置するなど客の不安を和らげるための対策はとっているが、支配人の男性(53)は「これ以上感染が広がらないよう祈るしかない」と話す。町は16日に危機管理対策本部の会議を開き、風評被害の情報を集めることを確認した。
◇「全国的ないじめだ」
一方、県の窓口には16日午後2時までに233件の相談があり、「不安なので感染した患者の住所を教えてほしい」という内容もあったという。有田病院の医師や看護師を特定しようとする動きも把握しているといい、仁坂知事は「湯浅町が(ウイルスに)汚染されているかのような全国的な『いじめ』が起きている。今後、『がんばろう湯浅』のようなキャンペーンも検討したい」と話した。【後藤奈緒、木原真希】