畜産農家、募る不安 家畜かかりつけ医が高齢化

 宮崎県で口蹄(こうてい)疫の被害が深刻化する中、東北各県が獣医師の高齢化に危機感を強めている。地域を巡回する家畜のかかりつけ医が手薄になれば、「口蹄疫のように感染力の強い疫病の発生や拡大を早期に察知するのが難しくなる」(青森県)と懸念する。新卒の獣医師はペットの診療を希望する傾向が強まり、農家も「将来、家畜を診てくれる獣医師が地域からいなくなるのではないか」と不安を募らせている。(青森総局・一条優太)
 むつ市の獣医師藤田毅彦さん(72)は約25年前、大手乳業会社を退職し、故郷で開業した。市内や周辺の畜産農家約40戸を回り、主に病気の診療や妊娠検査などをしている。
 「牛の健康管理は何から何まで、藤田先生の世話になっている」と青森県東通村上田代の畜産業竹林竹光さん(70)。農家からの信頼は厚い。
 そんな藤田さんも「あと2、3年は続けられるが、それ以降は分からない」と漏らす。
 家畜の診療は力仕事も少なくない。牛のお産では、体重数百キロの母牛の体位を何度も変えたり、子牛を引っ張り出したりする作業が1時間以上続くことがある。急な呼び出しも多い。往診先から次の依頼場所に、数十キロの移動を強いられることが珍しくない。
 開業して以来、藤田さんの完全な休日は年に数日程度。長期の旅行をしたことはない。こうした労働環境の厳しさも、若者が敬遠する理由とみられる。
 東北で主に家畜を診療する獣医師の数と年代構成は表の通り。50代以上が6割を超え、20代は1割にも満たない。各県の担当者は「今から若い世代を確保しなければ今後、家畜の健康管理に悪影響が出かねない」と口をそろえる。
 農林水産省によると、2008年度の新卒獣医師1039人のうち、445人は主に小動物を診る病院に就職した。家畜をはじめ産業動物を診療する農協の診療所などに進んだのは102人にすぎない。
 北里大獣医学部(十和田市)の諏佐信行教授(獣医公衆衛生学)は「20年ほど前まで、学生の希望は小動物と産業動物がほぼ半々だった」と説明。「最近はペットを家族同然に扱う家庭が増えた。学生には小動物の方が親しみがわくのだろう。仕事がきつい割に給料が低いことも影響している」と分析する。
 農水省は「まずは獣医学部の学生に関心を持ってもらうため、畜産関係の団体が実施する産業動物の臨床実習に補助金を交付するなどしていきたい」と話している。

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