病気でなくても加齢でなる「寝たきり」…防ぐ方法は1つだけ

日本が世界に類を見ない「寝たきり」の老人大国であることは、いまや広く知られています。正確な統計はありませんが、寝たきり老人の数は1993年の90万人から2010年に170万人に達し、25年に230万人に達すると予想されています。大きな原因は、過剰な終末期医療(延命)にありますが、それだけとは言えません。

 一般的に、がんの末期や認知症の進行などで、最終的に寝たきりになると思われがちですが、加齢の進行で身体機能が衰えれば寝たきりになるケースもあるのです。

 内閣府の「高齢社会白書」によると、高齢者が「要介護」となる主な原因は、(1)脳血管疾患、(2)認知症、(3)高齢による衰弱、(4)骨折・転倒となっています。つまり、高齢化(老化)はいずれ寝たきりを招くわけです。

 どうしたら寝たきりを防げるのか? 人生の終わりまで自分のことは自分でできる生活ができるか? 答えは1つ。脳と体を使い続けることです。

 たとえば、心臓疾患、脳卒中などの重篤な症状で入院し、治療を受けた患者さんで、寝たきりにならない患者さんは、リハビリを早く始め、それに取り組んだどうかで決まります。

 急性期病院は、治療が主なので、リハビリに関しての意識は高くありません。たとえば、脳梗塞で入院しても、回復後すぐに上半身を動かすなどのリハビリをやりません。私は、自分の息子が若くして医療過誤で脳梗塞になり、そういう経験をしていますので、このことを痛感しています。

 できるだけ早く、体を動かす。これが大事なのです。高齢者の場合はとくにそうです。高齢者の場合は、病院で1カ月もベッドに横になったままでいると、関節が拘縮し、全身の筋肉が減少するだけでなく、心肺機能まで衰えます。さらに、栄養や水分が十分に与えられないと、物を食べる機能まで失われてしまい、体力を回復するのは困難を極めます。

 こうして、寝たきりになってしまうのです。

 ともかく、体を動かし続けること。そして、日常生活を支障なく送れるように心がけることです。なにも脳梗塞などの疾患に限った話ではなく、普通に年をとっていく過程でも同じです。加えて、脳の認知機能も絶えず使い続けることが重要です。

 身体機能の衰えを予防するには、まずは歩くこと。1日最低でも4000歩のウオーキングが必要です。さらに、椅子から立ち上がってまた座るという動作を100回ぐらい行うことが推奨されます。運動といっても、ジムに通って筋トレをする、ランニングをするなど、激しい運動をする必要はないのです。連載の10回目で「鍛えてはいけない」と書きましたが、何もしないのもよくありません。

 運動には、筋肉の衰えを防ぐ、脂肪を燃やすといったこと以外にも、脳の働きを活性化する、ホルモン分泌を助けるなどの作用があります。外からはわからない内臓の老化も防ぎます。

 老人施設では、寝たきりにならない運動として、ウオーキング、ジョギングを勧めます。有酸素運動をすることで、代謝と血行をよくできます。

 また、「ひとりジャンケン」も勧めています。これは、利き手でグー・チョキ・パーと順に出し、逆の手で必ず負けるチョキ・パー・グーを順に出していくというもの。これを1日5分行うだけで、脳の認知機能の低下を防げます。

 いろいろ厳しい現状を書いてきましたが、「長生き」を目的にするのではなく、何をするか頭を使いながら年を重ねていきましょう。

 ■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営の後、「ラ・クイリマ」代表取締役。早稲田大学講師、日本女子体育大学助教授などを歴任、新日本プロレスリングドクター、医療コンサルタントを務める。『不要なクスリ 無用な手術 医療費の8割は無駄である』(講談社現代新書)、『ブラック病院』(イースト・プレス)など著書計67冊。

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