日銀の白川方明前総裁が、国際通貨基金(IMF)の季刊誌に寄稿した論文で、黒田東彦総裁による10年間の大規模金融緩和を「壮大な金融実験」として批判的に論じた。これまで黒田日銀の政策について表立った発言を控えてきた白川氏だが、黒田氏の退任が4月に迫ったタイミングで批判した形だ。 【図表】日銀を巡る主な動き 論文は金融政策の新たな方向性に関するもので、英文で3ページある。1日にIMFのウェブサイトで公表された。 そのなかで白川氏は、黒田氏が実施したマイナス金利や大量の国債購入など異例の金融緩和策について、「物価上昇の面から見て影響は控えめだった。そして経済成長の面から見ても同じく効果は控えめだった」と評価。「必要なときに金融政策を簡単に元に戻せるとの幾分ナイーブな思い込みがあったのではないか」と指摘した。 超低金利の継続を予告するフォワードガイダンス(先行き指針)など黒田氏が導入した非伝統的な金融政策にも疑問を投げかけ、足元の悪性インフレを助長する一因になったとの厳しい見方を示した。 白川氏が総裁在任中の2012年12月に第2次安倍晋三政権が発足。アベノミクスを打ち出した安倍政権は日銀に大規模金融緩和を迫り、白川氏の後任に黒田氏を選んだ。白川氏は13年3月に任期満了を前に辞任した。 安倍政権の意向をくんだ黒田氏は「2%の物価安定目標を2年で達成する」と豪語。「金融政策には限界がある」と訴える白川氏の路線を転換させ大規模緩和策に踏み切った。 だが、現実には2期10年たっても2%目標は達成できなかった。むしろ円安による物価高の加速や超低金利による産業の新陳代謝の遅れなど、長引く金融緩和の弊害が目立つようになっており、白川氏の主張に分があったと証明する格好になっている。 白川氏は、安倍政権と日銀が目指した2%の物価目標について「物価目標は1970年代から80年代初頭のスタグフレーションを受けて誕生したもので、変更不能と考える理由はない」と指摘したうえで、「その限界を知った今こそ金融政策の枠組みを更新するときだ」と見直しの必要性を訴えた。【ワシントン大久保渉】