百貨店はついに「大閉店時代」に突入、東京商工リサーチが解説

今年に入り、百貨店の経営破綻や閉店が相次いでいる。中でも深刻なのは地方都市で、山形県と徳島県はついに百貨店が1つもない「百貨店空白県」になった。だが、足元の百貨店の苦境は序章にすぎない。新型コロナによる業績への影響が深刻化する中、百貨店の閉店ラッシュがいよいよ本格化しそうだ。(東京商工リサーチ情報部 増田和史) 【「百貨店が1店舗しかない都道府県(表)」はこちら】 ● 消費者の百貨店離れに 消費増税と暖冬がとどめ  百貨店の閉店が加速している。2020年は1月に山形県の老舗百貨店、大沼が負債30億円を抱えて破産を申請したのを皮切りに、8月末までに全国で12店舗が閉店した。  特に、春から夏にかけ、新潟三越、そごう・西武の地方4店舗、福島県の老舗百貨店・中合など、地域の有力10店舗の閉店が集中する異常事態で、百貨店の苦境をさらけ出した。  折しも、コロナ禍で頼みの綱だったインバウンド需要が消失し、外出自粛や感染拡大防止に備えた臨時休業、時短営業が広がった時期だった。まさに、百貨店を頂点にした小売業の“冬の時代”を象徴する出来事でもあった。

 とはいえ、これまでの閉店はすべて新型コロナの感染拡大前からの計画で、時期が重なったにすぎない。ここ数年、各社は店舗戦略の見直しやリストラを断続的に進め、その結論が店舗撤退という既定路線だった。  新型コロナの前から、消費者の百貨店離れが広がり、2019年10月の消費増税と暖冬がとどめを刺したと見るべきだ。  だが、新型コロナの影響で今期業績は大幅に見込みが狂い、リストラ策がピッチをさらに早める可能性も出てきた。百貨店の「大閉店時代」は、むしろこれから本番を迎えるだろう。 ● 百貨店70社の最新決算は 8割が減収、半数が赤字  主要百貨店70社の最新期決算(2019年4月期-2020年3月期)の売上合計は、5兆6186億円(前期比3.1%減、1824億円減)、純利益合計は58億円(同91.1%減)で、減収減益だった。  減収は調査開始以来4期連続で、長期低落が続いている。特に、最新期の売上高は前2期と比べても落ち込み幅が顕著だ。  企業別では、増収が10社にとどまったのに対し、減収は60社に上り、減収企業率は8割を超えた。増収10社のうち、前期比5%以上は秋田県内を中心に、食料品販売を主軸とするタカヤナギ(秋田県、前期比7.8%増)の1社のみだった。  純利益の合計は、先述の通り58億円(前期比91.1%減)の黒字にとどまり、前期の660億円から大幅に減少した。赤字企業の増加に加え、そごう・西武(▲75億円)、三越伊勢丹(▲64億円)など、いずれも大手が大幅な最終赤字を計上したことが要因だ。全体の売上高純利益率は0.1%に低迷し、低収益が経営の足かせにもなっている。

損益が判明した69社では、黒字が36社、赤字が33社と拮抗した。黒字は前期の43社から7社減り、直近決算3期を比較しても赤字企業の比率が年々増えている。  赤字や減益企業が増え、最新期の利益合計は前期比9割減と大幅に落ち込んだ。厳しい収益環境が続き、採算悪化は有効な手だてを打てない百貨店の業態そのものが抱える宿命かも知れない。  売り上げトップは、近畿圏や首都圏を中心に全国展開する高島屋の7222億円で、3年連続。  2位は大丸松坂屋百貨店(6561億円)、3位はセブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武(6001億円)と続き、上位には持ち株会社の下に経営統合した全国展開の大手百貨店グループや東京、大阪の電鉄系の百貨店が並んだ(業績はいずれも単体ベース)。  トップ10に加え、11位の岩田屋三越(売上高1085億円)までの11社が、売上高1000億円を超えた。  売り上げトップ20社のうち、増収はジェイアール東海高島屋と井筒屋の2社のみ。9割が前期売り上げを下回った。ジェイアール東海高島屋は名古屋駅直結という地の利を生かし、名古屋圏内の既存百貨店の低迷とは対照的に来店客増など好調を維持した。井筒屋は新規ブランドの導入に加え、2019年2月に閉店した関連会社、コレットからの移設分が増収に寄与した。 ● 閉店が相次ぐ地場百貨店 再編を阻む2つの壁  一方で、深刻さがより際立つのが、大手百貨店などの流通グループや大手私鉄が親会社を除いた、いわゆる「地場独立系」の百貨店(以下、地場百貨店)だ。  地場百貨店31社の最新期の売上高合計は、8081億円(前期比2.9%減、242億円減)で、増収はわずか5社にとどまり、26社が減収だった。  純利益の合計は▲25億円(前期▲93億円)で、改善したとはいえ2期連続の赤字から抜け出せなかった。企業別では黒字が16社、赤字が15社と、ほぼ半数に達した。  地場百貨店31社の売上合計は8081億円で、1社平均260億円にとどまる。地場百貨店がまとまっても、業界首位の高島屋1社分の売上高(7222億円)を1割程度上回るにすぎない。

 地域に密着した「老舗」という信用は厚いが、狭い市場と限られた経営資源では、業績改善を図る方策は限られる。大手資本への依存も見込めず、多くの地場百貨店は岐路に立っている。

 投資ファンドの支援に活路を求めたが、業績が好転しないばかりか、内紛騒動まで勃発した大沼(山形市)の破産(2020年1月)は業界に衝撃を与えた。1700年の創業、業歴320年という老舗中の老舗だが、凋落の一途をたどり、経営権を巡る紆余曲折の末に破産した。

 ひっそりとのれんを下ろす地場百貨店は、大沼だけではない。

 甲府駅前に立地していた山交百貨店(甲府市)は2019年9月に閉店し、その後は縮小して保険代理業務などを手掛けている。1910年に柳源呉服店として岐阜で創業したヤナゲン(大垣市)も2019年に百貨店事業を終了、不動産賃貸業に業態転換した。

 愛知県の東三河地区を拠点としていたほの国百貨店(豊橋市)も今年3月に閉店し、5月に解散した。仕入先などへの一般債務の支払いはできたが、金融債務の返済が難しく、最終的には特別清算を申請した。

 地場百貨店の再建を阻むのが、動線の変化と老朽化問題だ。市街地の中心部に出店する地場百貨店は、一時は地域の旗艦店として名実ともに地域経済を代表する企業でもあった。だが、地方都市の空洞化が進み、郊外に出店したショッピングモールなどに人が流れるのをつなぎ止められなかった。

 さらに、“老舗”の裏返しで設備の老朽化も大きなハンディになった。百貨店の多くはバブル前に建てられ、古びた設備がネックになっている。集客のためのリニューアル資金の捻出も厳しく、耐震工事の費用すらままならない。そんな地場百貨店も存在する。

 かつて地域一番店を標ぼうした地場百貨店は、地域の第一地銀をメインバンクにするケースが多い。だが、名門と呼ばれた百貨店も時代の流れに取り残されている。昨今の金融機関は、企業の将来性を「事業性評価」に基づいて判断する。先行きの見通しが厳しい百貨店は、設備投資の資金調達すら難しい。

● 山形・徳島に続く「百貨店空白県」 3番目の候補は17県  山形県は大沼の破産で、全国初の「百貨店空白県」となった。次いで、8月にそごう徳島が閉店した徳島県が続いた。  そごう徳島の閉店後、建物を保有する地元第三セクターが隣県の高松三越の誘致を交渉していることが明らかになり、話題となった。11月中旬から1カ月間、高松三越は同建物で「お歳暮ギフトセンター」を開設する予定だ。今回はあくまでも期間限定だが、そごうロスで消沈する地元関係者の間では、正式出店への期待が高まっている。  百貨店が県内に1店舗しかない都道府県は全国で17県を数える。このうち、8県が大手系列の百貨店で、9県が地場百貨店だ(表参照)。  3番目に空白県となる地域はどこか。  大手系列は、破綻懸念こそ低いが、徳島県のように「選択と集中」の構造改革の中で、地域から撤退という選択肢は十分考えられる。  また、不振にあえぐ地場百貨店の中には、重大な経営危機にひんしている企業があるとの情報もある。支払いを懸念して取引見直しを検討する仕入業者も出ている。新型コロナという逆風の中で、名門のプライドを捨てきれない百貨店は、生き残りを懸けた統廃合や再編、閉店だけでなく、経営破綻による突然死も現実味を帯びている。  百貨店はその名が示すように、何でもそろう魅力ある商品構成が売りだ。かつては街のランドマーク、ステータスシンボルでもあった。だが、ドラスティックな消費構造の変化で、存在感と求心力を次第に低下させてしまった。過去の遺物として取り残されないため、その存在意義を見つめ直すのに残された時間は少ない。

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