百貨店「大量閉店」の陰にある高速バスの進展

今年1月に山形市の老舗百貨店「大沼」が閉店し、山形県から日本百貨店協会に加盟する百貨店の火が消えて話題となった。さらに8月には「そごう徳島店」が閉店し、徳島県が百貨店のない2例目の都道府県に。同じく8月には、北九州市の「井筒屋黒崎店」も閉店するなど、地方の中核都市や大都市近郊の百貨店の閉鎖が相次いでいる。

山形市と徳島市には、共通点がある。それは、高速道路の開通により近隣の大都市の商圏に組み込まれ、便利になった高速バスで買い物客などが流出、それが百貨店経営にじわじわとボディーブローのように効いてきたことである。

仙台との結びつきを強めた山形道

山形市は、奥羽山脈を挟んで東北の雄都、仙台市と隣り合っている。戦前に開通したJR仙山線が長らく山形と仙台を結ぶ主要ルートであったが、山形自動車道が開通して山形と仙台が直結すると、両都市を結ぶ高速バスの運行が始まった。

そして、増便に増便を重ねて、今では1日片道80便(平日ベース、コロナによる運休も含む)ものフリークエンシーサービスを行っている。仙山線の山形~仙台直通列車が18往復しかないことを考えると、輸送力の差は歴然だ。


高速バスの発着も多い仙台駅(写真:ponta2012 / PIXTA)

平日朝の山形発の時刻表を見ると、6時台、7時台はともに9便ずつ。6~7分おきに運行されていることがわかる。所要時間は約1時間。仙台側では、JR仙台駅前だけでなく、仙台一の繁華街である一番町最寄りの「広瀬通一番町」や、オフィス街である「県庁市役所前」に停まるため、通勤や買い物にもJRより利便性が高い。運賃は片道950円、6回券だと1回あたり800円まで下がり、気軽に利用できることがわかる。

一番町周辺には「藤崎」「三越」「仙台フォーラス」などの百貨店やファッションビルなどが集中しており、週末には県内だけでなく、県境を越えた隣接地区からも買い物客を集めている。

山形県買物動向調査によると、平成27年の山形市の他市町村への買物流出率は、通信販売を除けば第1位が仙台市で5.4%となっている。単純計算すれば、市民の20人に1人は仙台市へ買い物に出かけており、マイカーや高速バスがその足を支えていることが推察される。

一方の徳島市は、1988年に神戸淡路鳴門道の開通により、阪神地区と高速道路で直結した。現在、JR徳島駅からは、平日ベースで神戸に片道17便、大阪に27便の高速バスが出発している。阿南方面から徳島市内で停車して大阪に向かうバスも合わせると、毎日50便以上の高速バスが、徳島から阪神方面へ向かっていることになる。


徳島県と兵庫県を結ぶ神戸淡路鳴門道(写真:kazukiatuko / PIXTA)

高速道路ができる前は、徳島から大阪へは和歌山港までフェリー、和歌山港からは南海電車で難波へ向かうルートがメインであった。これでは何度も乗り換えがあるし、所要時間も長い。気軽に買い物へ行けるルートではなかった。

これが高速バスでは、徳島駅から神戸三宮まで110分、往復で6000円あまり。三宮周辺には、「大丸」と「阪急」のほか、港に面してショッピングモールが入る「ハーバーランド」もあり、周辺のショッピング街も合わせれば十分買い物を楽しめるし、大阪便を使えば、西日本最大の商業集積を誇る大阪のキタにもミナミにも直行できる。

2018年4月6日の徳島新聞に「検証明石架橋20年 消費流出 徳島市内の店舗激減」という記事が掲載され、このように書かれていた。

「本州への人の流れが加速する様子は、高速バスの利用状況からも見て取れる。開通直後の1999年に淡路島を経由して四国と京阪神を結ぶ高速バスは1日92往復だったが、16年には3倍超の314往復に拡大。輸送人員も2.5倍近くに膨らんだ。松茂町の徳島とくとくターミナルでは、徳島駅よりも周辺の駐車料金が割安とあって、近隣の農業用地は次々と駐車場に姿を変え、現在の収容台数は町が把握するだけでも861台に上る」

徳島市民が、高速バスのターミナル周辺に車を停めて鳴門・明石の両海峡を越えて行き来していることを、地元でも大きな課題だと認識していることが伝わる記事である。

百貨店の苦戦は構造的な課題だが

山形の大沼も徳島のそごうも、閉店の理由は高速道路による買い物客の流出だけが原因ではない。

百貨店は、郊外の大型ショッピングモールや家電・ファッションの専門店の隆盛、ネット通販の普及、人口の減少などで構造的な不況が続いており、高速道路の影響はほとんどないと考えられる地区の百貨店の撤退も続いている。今年になってからも、すでに「そごう西神店」「西武岡崎店」「中合福島店」「郄島屋港南台店」などが営業を終了した。

それでも撤退した百貨店の立地を見れば、その背後に高速バスの影響をうかがい知ることができる。8月に「井筒屋」が撤退した北九州市の黒崎は、小倉や博多までのJRの在来線も便利だが、郊外からは九州最大の繁華街、福岡・天神への高速バスが頻発している。

九州では「福岡ひとり勝ち」の状況が続いているが、その背景には西鉄を中心にバス王国が築かれ、九州の主要都市がほぼすべて福岡・天神と安価で便利な高速バスで結ばれていることが大きいと思われる。

買い物客の“逆転現象”が起きた木更津

東京湾アクアラインが開通した3年後の2000年に「そごう」が撤退した木更津では、その店舗跡にさまざまな商業施設が入っては撤退するというサイクルを繰り返し、駅前の一等地にあるショッピングビルは、現在も公共施設を除けば空き家に等しい状態のままになっている。

木更津の駅前からは、東京・新宿・渋谷・品川・川崎・横浜の各駅などに1日200便ほど(平日ベース)のバスがアクアラインを渡って向かっており、木更津駅前の百貨店がなくても困らない。


高速バスが走る東京湾アクアライン(筆者撮影)

皮肉なことに、アクアラインの東側の玄関となる木更津金田インターチェンジ近くにある「三井アウトレットパーク木更津」には、東京駅や新宿駅、たまプラーザ駅、相模大野駅などからの直行高速バスが多数運行されており、木更津市民は京浜地区へ買い物に、逆に京浜地区の買い物客が木更津のアウトレットに買い物に来ていることが、高速バスの充実ぶりから伝わってくる。

同様の“逆転現象”は、九州でも見られる。佐賀市の中心部に立地する老舗百貨店「玉屋」が苦戦している一方で、西日本各地にショッピングモールを展開するイズミが運営する「ゆめタウン佐賀」が、長崎道を利用して佐世保市や久留米市など県外からやってくる買い物客でにぎわい、ゆめタウン全102店でトップの来店客数を誇っている。


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地域全体からすれば、高速道路の利害はプラスもマイナスもあるように見えるが、地元の百貨店の衰退と県外資本による大型店の隆盛が、果たして地域の持続的な発展につながるのかどうかは、長期的な視点で見極める必要があろう。

便利で快適な高速道路は、開通前の期待とは裏腹なストロー効果を各地に現出させている。百貨店の撤退はやむをえない時代の流れなのか、それによって街自体の求心力が失われるとすれば、それに代わるものを高速道路はもたらしてくれるのか、ほぼ全国に高速道路がいきわたりつつある今、あらためてそのことを考えさせられる。

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