6月でポイント還元制度が終了したが、9月にはマイナポイント制度が。終わらぬ消耗戦の中で、勝ち残るキャッシュレス決済はいったいどこか?
QRコード決済普及に効果はあった「ポイント還元」
ソフトバンクグループの「PayPay」、LINE「LINE PAY」、KDDI「auPAY」、楽天の「楽天ペイ」などなどすでに20以上がひしめくスマホ決済サービス。ここ2年ほどは、ユーザー獲得のために各社が競って推進したポイント還元キャンペーンが、そこかしこで目立っていた。
キャッシュレス決済の推進と、消費税増税後の個人消費下支えのためとして、昨年10月に国が始めた「ポイント還元制度」が、それを後押ししていたが、それがこの6月末で終了した。最大で購入額の5%をポイントで還元する異例のインセンティブが、いったん区切りを迎えたことになる。
この間、経済産業省が投じた7353億円はどれほどの効果を生んだのか。同省のキャッシュレス推進協議会が6月にまとめたwebアンケート(「キャッシュレス調査の結果について」)によれば、5月には全国のどの地域においても約5割の消費者がこの還元事業によってキャッシュレス化を開始、もしくはそれまで使っていた支払い手段から増やしていたという。
中でも、やはりスマホのQRコード・バーコード決済を使う人の増加が目立った。全国でも「週1回以上使う」「月1回以上使う」「半年に1回以上使う」の合計が2019年6月の20.4%から同11月には29.3%、今年5月には38.1%に。「半年以上前に利用した」「持っているが利用したことがない」という“とりあえず加入はした人”を加えると28.5%、37.1%、46.3%と急増した。
また、ポイント還元事業の登録加盟店は、その対象となる中小・小規模店舗の半数を超える115万店舗(6月11日時点)。同サービスによる決済金額は約7.2兆円、還元額は約2980億円(昨年10月1日~今年3月16日まで)を計上したというから、「ポイント還元制度」には一定の効果があったといえよう。
営業赤字365億円が822億円に拡大
ここ数年来、各社のスマホ決済サービス間で激しい淘汰が進んだ。その内実は、巨額の先行投資による消耗戦だ。2018年2月のソフトバンクグループが擁するPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」がその“毒”の大元といっていいが、これを皮切りに、各社は大枚をはたいたキャンペーンを次々と遂行した。
その結果、PayPayのサービス運営を担うPayPay株式会社の2020年3月期決算は、「主に、ユーザー獲得と利用促進を目的とした大規模なキャンペーンを実施したことや、サービス利用可能店舗の拡大に引き続き積極的に取り組んだ」(決算短信)ことで、営業赤字を2018年度の365億5900万円から822億3400万円へと大きく拡大させた。
そのソフトバンクグループのZホールディングス(旧ヤフー)と経営統合するLINEは、主業務とする戦略事業の営業赤字665億5700万円と、前年の349億3100万円から約316億円増。2019年2月から「メルペイ」のサービスを開始したメルカリも、「楽天ペイ」の楽天ペイメントも同様だという。
オリガミは約259万円でメルカリにたたき売り
消耗戦はシビアである。一度始まったら自分の都合だけで土俵を降りられないし、ライバルが複数いるならなおさらだ。仮に他の1社に競り勝っても、ヘトヘトになった末に別の社が漁夫の利を得ることもある。これでは、何のための先行投資かわからなくなる。
ついていけなければ、脱落せざるを得ない。今年2月にはQRコード決済の草分けだったオリガミがメルカリに買収された。一時は企業価値400億円以上とはじき出されていたこのスタートアップ企業の、約259万円というたたき売り同然の買収額が話題を集めた。
この先も、さらなる先行投資は避けられまい。Zホールディングスの坂上亮介社長は、4月の日経新聞インタビューで、「(2018年秋から)最初の3年間はキャッシュレス決済の習慣化、ユーザーの獲得に集中すると議論してきた」「もう1年ぐらいはキャンペーンを含め、日本に習慣を根付かせたい」「次の3年で事業を成立する構造にしていく」と、消耗戦の継続に動じぬ姿勢を見せている。
これに伍してゆくには、まず加盟店の手数料の値上げが考えられるが、サービス還元制度修了と同時に7月からは国からの補助がなくなって、加盟店は消費税増税に加え、税金同様の手数料の負担をまともにかぶることになる。利益の薄い小売店などは、かえって赤字につながりかねない。来年9月まで手数料ゼロのPayPay、来年7月まで同じくゼロのauペイなどはまだまだ我慢を続けるようで、消耗戦であることにやはり変わりはない。
「手数料が割高だから」キャッシュレスをやめる店舗
ここを店舗側はどう見ているのか。先のwebアンケート調査では、6月末でキャッシュレスの支払い手段を91.6%が「継続する」と回答。しかし、残りの「継続しない」と答えた店舗のうち46%は、その理由として「当初予想よりも決済手数料などの費用が割高だったから」、39%は「キャッシュレスの支払い手段を利用する顧客が少ないから」と回答。手数料の負担の重さから、せっかく増やした加盟店が逃げてしまいかねない。
しかも現金払いと違って、売買から入金までにタイムラグがある。そのため、全国でも約2割の店舗が「入金サイクルの変化に起因して、資金繰りに困ることがある」と回答した。前述の「今後はサービスを止める」と回答した店舗の中でも、「入金までに一定日数以上かかるため、資金繰りに困ることがあったから」との回答が24%に上っている。
また一方のユーザー側から見える風景も、国やサービス供給側とは少々異なる。前述のアンケートでは、現在キャッシュレスを利用している消費者の83.8%が、「7月以降も利用を継続したい」と回答しているという。ただ、ユーザーからすれば、どのサービスが生き残ろうがどう住み分けようが、理想は単一のサービスがいつでもどこでも、時間と手間をかけずに使えることだ。
「Suica+iD」が最もシンプル&スマート?
しかし実際は、サービスは覚えきれぬほどあり、各々バラバラな登録店舗をいちいち確認しなければならず、どれを選べば自分にとって得なのかわかりづらい。しかも、実際に使うときには店頭でスマホのアプリを立ち上げてからQRコードを読み取らせるまでに、2つや3つの余計なアクションが必要だ。
このままなら現金のほうが楽だし、単に「現金からキャッシュレスへ」というなら、使う際に「ピッ!」の1アクションで済むSuicaやPASMOなどのフェリカ形式の電子マネー、その上限額を超える買い物は、キャッシュカードをスマホに仕込んだiDを使う……という組み合わせが、現時点では最もシンプルでスマートにも思える。実際、すでに10代、20代の半数以上が交通以外の買い物用としてすっかりなじんでおり、これがどこででも使えるようになれば他のサービスは出る幕がなさそうに思える。
9月からは、総務省がマイナンバーと紐づけたキャッシュレスサービスを使うとポイントが還元される「マイナポイント事業」を始める。サービス各社が引き続き競うなか、6月30日にSuicaを擁するJR東日本も決済事業者として名乗りを上げた。世間ではキャッシュレス推進の重要性よりも、ポイントによる“釣り”ばかりが話題となるが、サービス各社の体力勝負が、ユーザーにとっても店舗側にとってもベストなキャッシュレス決済の選択につながってほしいものだ。