新型コロナウイルスに感染しているように装い、「俺、コロナ」と発言して騒ぎを起こし、店や公共交通機関などの業務を妨害する事件が後を絶たない。
言葉を凶器に周囲を混乱に陥れる犯行だ。専門家はその裏側に、鬱屈した心のありようがあると指摘する。
今月1日、さいたま市のドラッグストアで無職の男(54)が店員に近づき、こう声をかけた。「俺、コロナだけど、何で国はこういうやつに(マスクを)支給しないのか」。男は感染の診断もされていなかったが、マスクが品切れだったことに腹を立て、「おまえら全員うつったからな」と言い放った。
同様の事件は3月以降、家電量販店や駅、市役所でも相次ぎ、いずれも威力業務妨害や偽計業務妨害容疑で逮捕された。ツイッターに「コロナの疑いと医者に言われた。治してライブに行く」と投稿し、ライブイベントを中断させたとして会社員の男(30)が逮捕された事件もあった。
東京工業大の影山任佐(じんすけ)名誉教授(犯罪精神病理学)は「『コロナ』という言葉が凶器になる。普段は社会から見向きもされず、無力感を感じている人にとっては、言葉一つで社会に不安を与え、憂さ晴らしになる」と指摘する。外出自粛や収入の減少などからストレスを募らせ、心の鬱屈が攻撃的な言動につながっているとの見方だ。
電車内で女性客に「コロナにかかっている。うつるよ」と言って電車を停車させた自称・土木作業員の男(54)は逮捕後、「ふざけて嘘をついた」と供述した。犯罪者心理に詳しい新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)は「コロナと言えば大騒ぎになり、爆弾を仕掛けたと嘘を言うことと同じ効果がある。世間が騒ぐのが楽しい愉快犯に近い」とみる。
全国的なマスク不足からドラッグストアでは店員とトラブルになるケースも。先行きが不透明で閉塞(へいそく)感も強い。影山教授は「普段あまりできなかった家族との絆、地域や社会との絆を取り戻すプラスの機会ととらえ、連帯感を強めていくことが大切だ」と強調する。