宮城県石巻市の設備業「宮富士工業」社長で溶接工の後藤春雄さん(65)が、卓越した技能者を顕彰する2012年度の厚生労働大臣表彰「現代の名工」に選ばれた。東日本大震災で会社も被害を受けたが、早くから取引先の復旧に奔走した。今も一線に立つ名工は「少しでも地域に以前の光景が戻るよう尽力したい」と持ち前の技術で復興を支える。(25面に関連記事)
津波は石巻工業港近くの会社まで押し寄せた。溶接機などは水没したが、一部の機材は使用可能だった。「事業を再開するには自分たちの力が必要」と、1週間後には被災した取引先の工場などで設備の修復作業に取り掛かった。
溶接の道に入って約40年。石巻高等技術専門校で基礎を学んだ後、造船会社で腕を磨き、34歳で独立した。「ものづくりの原点は幼いころの工作。『製品』ではなく『作品』を作ることにこだわりたい」。技術は高く評価され、03年度には中央職業能力開発協会(東京)から県内で初めて「高度熟練技能者」に認定された。
後進の指導も重視している。06年の県溶接技術競技会では社員が上位3位まで独占した。東北少年院(仙台市)や県内の工業高校などでも10年以上、溶接技術を教えている。
震災を乗り越え、新たな夢を描く。「溶接道場」を開き、全国大会で優勝できる人材を育てることだ。被災地の再生を見据え、「石巻地方全体の技術力が上がれば、自然と仕事は集まる」と意欲を新たにする。