石巻唯一の銭湯「鶴湯」 92年の歴史に幕 感謝胸にきょう最終日

石巻市に残る唯一の銭湯「鶴湯(つるのゆ)」が30日、92年の歴史に終止符を打つ。東日本大震災の津波で被災し、全国のボランティアの力を借りて翌年再開した。戦前から震災後まで地域と苦楽を共にしてきた「街中の昭和」は役割を終え、店主の高齢化、利用者減など時代の流れの中で姿を消す。

 「やり切った気持ちもあるけれど、あしたで終わりだと思うと寂しいねえ」。最後の営業を控えた29日、おかみの杉山きよさん(78)が感慨を込めた。7年前に死去した夫栄八さんに代わり、鶴湯を守り続けた。
 創業は1927年。製材所を営んでいた先代が廃材を使って風呂を沸かそうと、同市住吉町1丁目に銭湯を開いた。67年に栄八さんが後を継ぎ、浴場を新築した。
 開業当時、鶴湯から近い旧北上川の河口に石巻漁港があり、船乗りらが重労働の疲れを癒やした。周辺は戦火を免れ、風呂のない古い家が多く、夕暮れ時には近隣の住民でにぎわった。
 震災が襲ったのは開業から85年目。津波は浴室に流れ込み、ヘドロが堆積した。シャワーや浴槽の湯量を調節するモーターも海水に漬かって壊れた。
 危機を救ったのはボランティアだった。連日大勢が支援に入り、ヘドロを取り除き、繰り返し洗浄した。タオルやせっけんが全国から届いた。大阪府から来たボランティア男性は、浴室の壁にタイル画のような富士山の絵を描いた。
 2012年の元日に営業を再開。きよさんは「頭が下がる。ありがたい」と今も感謝の思いを胸に刻む。
 今年5月、風呂を沸かす燃料の重油タンクが耐用年数に達した。新規購入か修繕が必要になり、迷った末に閉店を決めた。「年齢的にあとどのくらいできるか分からないし、利用者も減った」ときよさんは話す。
 震災で自宅の風呂が壊れ、週2回通う80代女性は「すごく気持ちがいい湯で入るとホッとした。やめるのは大変残念だ」と語る。
 最終日の30日は入浴料を無料にする。「大勢の人に来てもらい、思い出を語り合ってほしい」。きよさんが願った。

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