「交付金2000万円」への違和感
第50回衆院議員選挙の投開票が行われ、自民党の大幅な議席減が確定した。自公あわせても過半数に満たず、大物議員や現職大臣、さらには公明党代表などが次々と落選する、近年まれにみる与党の大敗となった。 【写真】石破首相の「腹出し集合写真」がヤバい…! 自民党は今回、「裏金問題」が決着を見ることなくくすぶるなかで、苦しい選挙戦に臨むこととなった。その逆風をさらに強める「ダメ押し」の一手となったのが、共産党の機関紙である「しんぶん赤旗」の10月23日の報道だった。非公認の候補が代表者を務める自民党の政党支部に、総選挙の公示後、党から政党交付金2000万円が支給されていたことが明らかになったのだ。 〈今回の衆議院選挙で自民党から公認されなかった候補者が代表を務める政党支部に、党本部が選挙の公示後に2000万円を支給していたと、一部で報じられました。森山幹事長は「党勢拡大のための活動費として支給したものだ。候補者に支給したものではない」とするコメントを発表しました。 今回の衆議院選挙では、政治資金収支報告書に収入を記載していなかった自民党の前議員10人が、党から公認されず、無所属で立候補しています〉(NHK NEWS WEB「“自民 非公認の候補者が代表の政党支部に2000万円支給”報道」 2024年10月24日より引用) 個人的には自民党を支持しているわけではないので擁護をしたいわけでもないのだが、それでも公正を期するため付言しておくと、野党(およびその支持者)やメディアはこれを「裏金だ!」とか「不正だ!」といった論調で非難したが、あくまで政党支部に支給される政党交付金であって、個人に支給される政策活動費とは別物だ。手続きに不正なプロセスがあったわけではなく、規則に準じて行われたものであり、法的にも問題はない。 しかしながら、たとえ「合法であり、手続き的にも正当」であっても、「裏金問題で非公認になった議員が代表を務める支部に、満額の交付金が支給されること」に世間が納得するかどうかは別の問題だ。自民党は、こうした“道義的論難”を受けるリスクがあることを想定しておかなければならなかった。とくに今回の衆院選のように、最初から逆風が強烈だった選挙戦に臨むにあたってはなおさらだ。 たとえ合法的なプロセスであったとしても、対外的に「筋が通らないじゃないか」とか「事実上の公認料ではないか」といった批判を受けうる“隙”を与えるべきではなかっただろう。裏金議員の非公認を決めた段階で、その議員が支部の代表を兼務している場合は退任させて、別の代表者を立てるなどしておけばよかったのだ。 今回は選挙戦の最終盤でも、まだ4割近い有権者が態度を決めかねていたようだ。この報道を受けて最後の最後で自民党への投票を止めた有権者は少なくなかっただろう。 ……しかしながら、冷静に考えてみればある種の違和感も覚える。
不自然すぎる「脇の甘さ」
というのも、「非公認になった裏金議員が支部の代表を務めている状態で、支部が交付金を満額受け取ったら、政敵やマスコミからよからぬ言いがかりをつけられるリスクがある」ということに、党内のだれも気づかなかったというのは常識的に考えてありえないからだ。 その辺の有象無象が集まった泡沫政党ならともかく、百戦錬磨の自民党が、このようなリスクをだれひとりとして事前に全く想定していなかったというのは現実的に想像しにくい。いくらなんでも脇が甘すぎる。 私は最初「石破首相を後ろから撃っている(≒高市総理爆誕を諦めきれない)人が赤旗にリークしたのか?」と陰謀説じみたことを考えたりもしたのだが、かりにそうだとしたら、自民党が壊滅状態になってしまうような状況をあえて引き起こしてから高市総理にバトンタッチするのは好ましくない。もっと穏当な形で「石破おろし」を画策するのが妥当だろう。自分たちの議席を失うリスクを猛烈に広げてまで石破失脚をねらうのは、合理的な行動ではない。よって「リーク説」はそこまで妥当ではない。 本件を含め、選挙戦始まって以降の自民党のゴタゴタについて「石破失脚をねらった陰謀・クーデター」の類いではないとしたら――と改めてじっくり考えてみたのだが、真相はもっと卑近というか、いうなればごくごく“下世話”な話だったのではないかと思い至った。 端的に結論をいうと、自民党やその関係者の持つ「石破首相のために!!!」という“熱量”が、現場で動く人びとそれぞれの中で、ちょっとずつ小さかったのではないか――ということだ。
陰謀でもクーデターでもなく
もう少しわかりやすくいえば、「石破さんのために、徹底的に細かい部分までチェックして、一分の隙も出ないようにバックアップしなきゃ!!」と奮起する気持ちがみんな微妙に少なく、だれもがちょっとずつ手を抜いていた。それが積もり積もった結果として、思いもよらない局面で極大の地雷が爆発してしまった――といった流れが実情に近いのではないだろうか。 麻生派の陰謀でもなければ、高市氏らのクーデターとかでもなく、だれもがちょっとずつ、(ほとんど無意識的に)ごく小さくサボってしまい、他のリーダーならけっして見落とさなかったであろう部分も「なあなあ」になってしまった。そういう“ゆるみ”から生まれた隙を赤旗が見逃さなかったのだ。 これは、企業勤めの人には馴染みのある光景もしれない。主流派の出世街道から外され、同僚や部下からも人望が薄く、普段なにをしているのかもよくわからない、会議に来たらなにか言っているようで何も言っていない空虚な発言ばかりをくり返して辟易され、しかし終身雇用に守られているので首だけは切られないで済んでいる、「お飾り」感のある名ばかり管理職。そんな人物が治める部署に、上役の気まぐれで急に大きめの案件が降ってきたときに起こるアレと同じだ。
「石破さんのために尽くす」人がいなかった
「この人に恥をかかせるわけにはいかない!」と、部下が一丸となって頑張るムードが生まれず、ちょっと緩んだ雰囲気をだれもが感じつつ、それでもとりあえず「事務的」にやることはやる。途中で「ん……待てよ……『コレ』ってもしかして、放置してたら後でヤバいことになるんじゃないか?」と直感が告げるような“なにか”を見つけても、いちいち報告を上げるようなことはしない。 「まぁ、報告したって『おまえが処理しろ』とか言われそうでめんどくさいし……黙ってればいいか」と、悪気なくちょっと手を抜いてしまう。そうしてだれもが見て見ぬ振りをしていた『アレ』がじつは極大の地雷で、ここぞという大事な場面で爆発――という具合だ。皆さんの会社でも似たようなトラブルに覚えはあるのではないだろうか。新首相就任後の自民党のゴタゴタ感は、つまりそういう話だったのではないだろうか。 かりに安倍晋三や岸田文雄がリーダーだったなら「総理!! これ絶対あとでヤバいことになります!!!」と飛び込んでくる腹心が少なからずいたはずだ。だが石破首相の場合は「まあ石破さんだし、そこまでしてやる義理はないか……」と、だれもが無意識的に判断して、熱量高く「石破首相のために頑張るぞモード」になってがむしゃらに動くことができなかったのではないだろうか。 いま思えば、石破氏が総理に就任したときに撮影したあの集合写真の騒動も、人望のなさとそれに起因する周囲の熱量の小ささによって重大なインシデントが起こることを暗示する、ある種の「伏線」だったように見える。 後編記事【大惨敗の石破首相、たった1ヵ月で「退陣危機」へ…あの「腹出し集合写真」が予言していた「絶望的な人望のなさ」が命取りになった】でひきつづき考察する。
御田寺 圭