◆獅子ケ鼻公園ガイドが発見
磐田市の観光名所の獅子ケ鼻(ししがはな)公園(同市岩室)で、簡単に人が立ち入れない森の中から百年以上前に安置されたとみられる石仏が八十四体見つかった。台座だけのものが四つあり、合わせると八十八。詳しいことは分かっていないが、当時の住民が四国八十八カ所の霊場巡りを模して置いた可能性もあり、謎の歴史スポットとして関心が高まっている。
石仏を発見したのは同公園トレッキングコースボランティアガイドの会の平忠弘さん(73)と市川敏仁さん(65)。五年前、公園にまつわる歴史文献から「八十八カ所と称する石仏が険しい場所に安置されている…」という内容の一文を見つけた。
標高二六〇メートルの獅子ケ鼻公園はトレッキングで人気を集める一方、弘法大師(空海)による開山伝説がある。弘法大師といえば、四国八十八カ所の霊場を開いた名僧。文献の記述と符合するが、公園内を知り尽くす二人はこれまで石仏を見たことはなく、管理する磐田市や地元の高齢者からも情報はなかった。
今年九月、二人は石仏を探そうと園内に整備されたトレッキングコースを外れ、険しい森の中に入った。三日目、道なき道を分け入って進むと、大きな岩穴に二十体の石仏が並んで安置されているのを見つけた。
「本当にあったと興奮し、神々しく感じた。多くの人々が訪れ、自分たちにとっても庭のように慣れ親しんだ場所なのに気付かずにいたのが不思議」と二人。
二十体には五十六〜七十五番までの番号が記され、二人は八十八番まであると確信した。それから約一カ月間、森中を歩き回り、十二カ所に計八十四体と、石仏のない四つの台座を見つけた。
石仏は約一・五ヘクタールの広大な園内の南側約三千平方メートルの狭いエリアの洞窟などに、一番から順番に左回りで安置されていたことも確認できた。単体もあれば、複数まとめて並ぶものもあった。高さは三〇〜五〇センチほどで、それぞれ表情やしぐさが異なる。
背面や台座には番号、寄贈者と思われる人名が彫られ、中には「新四国八十八カ所巡り」や「大正三年」の文字もあった。二人は「大正初期に地域住民がお遍路の願掛けで安置し、何らかの理由でそのまま放置したのかも」と、仮説を披露した。
獅子ケ鼻公園は一九〇五(明治三十八)年に整備され、その後に石仏が置かれたとみられる。市教委文化財課の担当者は「市にとって大発見。四国までお遍路に行きたかった当時の住民が、地元にミニチュア版を造ったことなどが考えられる」と推測し、今後、石仏の年代や素材、背景などを詳しく調査するという。
平さんと市川さんは「ずっと隠れていた石仏を巡礼できる新たなトレッキングコースを整備し、来園者に拝んでもらいたい」と意気込んでいる。
(夏目貴史)