社員がテレワーク継続を望むのに「それを拒む経営陣たち」の本音とは

いま企業は、来年度の予算編成のために事業活動の見直しを進めています。その中で大きな検討課題になっているのが、コロナ対応で普及した「テレワーク」です。

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 政府は緊急事態宣言下でテレワークなどによる「出勤者数の7割減」を企業に求めていましたが、2021年11月19日に改定した「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」では、テレワークの推進を引き続き求めるものの、出勤者数7割削減の目標を削除しました。


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 こうした変化から、「テレワークを見直す企業」の動きが出始めています。読売新聞が2021年10月下旬から11月上旬に実施した調査によると、回答した125社中、70社が「現状維持」、35社が「縮小する」と答えています。コロナが収束すれば、「縮小する」企業がさらに増えそうです。

 日本企業に定着するかどうか正念場を迎えているテレワーク。今後、テレワークはどうなるのか、アンケート・ヒアリングの調査を踏まえて考えてみましょう。

役職が上がるほどテレワークを敬遠する傾向に

 昨年11月下旬から12月上旬、大手・中堅企業の経営者11人・マネジャー13人・一般社員14人の38人に、テレワークについてアンケートとヒアリングで調査しました。

「オフィス勤務中心、または完全なオフィス勤務に戻したいですか?」と尋ねました。

・経営者(11人)
戻したい:8人
戻したくない:2人
どちらとも言えない:1人

・マネジャー(13人)
戻したい:6人
戻したくない:5人
どちらとも言えない:2人

・一般社員(14人)
戻したい:3人
戻したくない:10人
どちらとも言えない:1人

 全38人中17名、約45%が「戻したい」と回答しました。他の調査でも指摘されている通り、役職が上がるほどオフィス勤務を支持する(=テレワークを敬遠する)という傾向が確認できました。

社員はテレワークを大歓迎

 経営者・マネジャー・一般社員それぞれから、代表的・特徴的なコメントを紹介しましょう。まず一般社員から。テレワークを支持する意見が多く聞かれました。

「戻したくありません。いまオフィス出勤は週1回です。ゼロにすることも可能ですが、気分転換のために行っています。オフィスまで片道1時間かかるので、通勤がなくなってずいぶん楽になりました。家族と過ごす時間も増えました。運動不足で少し太った以外は快適そのものです」(IT)

「戻したくありません。週1~2回、苦手な上司・同僚が出勤していないのを見計らってオフィス出勤しています。職場の人間関係が苦手なので、飲み会や会社行事がなくなり、最低限のコミュニケーションで済み、助かっています。コロナによって、以前はいかに無駄なことをしていたのか痛感しました」(エネルギー)

「どちらとも言えません。担当業務を進める上で、テレワークでまったく問題ありません。マイペースで仕事できて、生産性が上がりました。ただ、私は独身なので、テレワークだと一日中一歩も家を出ず、リアルで誰とも話さないという日もあり、気持ちが滅入ります。同僚と馬鹿話するって意外と大切だと感じます」(サービス)

 テレワークが本格的に普及した一昨年は、業務が混乱する場面がよく見られましたが、やがて新環境に慣れてきて、円滑に業務を進められるようになりました。その結果、一般社員は、通勤の負担や人間関係の煩わしさが減るというメリットに注目し、テレワークを支持しているのでしょう。

マネジャーはテレワークに賛否両論

 次に、職場の責任者であるマネジャーのコメントです。勤怠管理・評価・育成といったマネジメント活動にどういう影響が出ているかで、賛否が分かれました。

「戻したいです。テレワークでは、部下の行動や意欲などを把握することが難しく、勤怠管理・育成・評価などを以前と同レベルに維持するために、労力がかかっています。調整のための会議が増えて、私の執務時間はかなり長くなりました。部下はテレワークを喜んでいるようですが、私はノイローゼになりそうです」(住宅)

「戻す必要はありません。テレワークに対応するため職務を明確にし、無駄な業務を減らした結果、職場全体の生産性が上がりました。オンライン教育が充実してきましたし、人事評価制度もかなり簡素化されたので、私の管理業務の負荷は以前とさほど変わりません。部下がモチベーションを保てているのかといった不安はありますが、テレワークは大成功です」(通信)

 従来、日本企業では、各社員の職務を明確にせず、集団で対応するという働き方でした。そして、職場のマネジャーがトラブル対応や部下の評価・育成(OJT)などを現場密着で手取り足取り進めてきました。テレワークで、この伝統的なマネジメント手法が通用しにくくなっています。

 上のコメントに見られるように、テレワークでも以前と同じやり方を続けようとすると、マネジャーの負荷が増えます。一方、テレワークに合わせて働き方や人事制度を見直すと、マネジャーの負荷は増えず、職場の生産性が上がるということでしょう。

経営者がテレワークに反対する本音

 最後に、経営者のコメントです。「テレワークを喜んでいる社員が多いので、続けてあげたい」(商社)という意見もありましたが、テレワークに批判的なコメントがたくさんありました。

「テレワークだと、データ紛失や回線トラブルなどのリスクがあります。営業部門の顧客対応も、かなり悪化しました。通勤地獄の解消など社員にとってメリットが大きいのは事実ですが、総合的に考えて、当社ではオフィス勤務主体に戻します」(金融)

「定型業務をこなす分には、テレワークでも問題ないでしょう。ただ、仕事ってそういうものですかね。事業の問題点を洗い出したり、新商品を検討するとき、ひざ詰めで時間を気にせずディスカッションをするべきだと思います。古いと言われるでしょうが、創造的な仕事をするにはオフィス勤務の方が優れていると思います」(消費財)

「知り合いの経営者から聞いた話ですが」と念押しした上ですが、次の興味深いコメントがありました。

「社長でも自宅に帰ると、単なる家族の一員。皿洗いも朝のゴミ出しもしなくちゃいけない。家族からは無視・蔑視される。会社に行けば、秘書がいて身の回りの世話をしてくれるし、部下は何でもハイハイと言うことを聞いてくれて、快適そのもの。社員がテレワークするとしても俺は出社するよ、という話でした。私も少しだけ共感します」(機械)

 先ほど一般社員(エネルギー)は、会社の人間関係が嫌でテレワークを支持しました。一方、経営者は家庭の人間関係が嫌でオフィス勤務を支持しました。経営者も決して部下との人間関係に満足しているわけではないでしょうが、家族といるよりも気が合わない部下と過ごす方がずっとマシということのようです……。

 ちなみに、私の知り合いのアメリカ人のIT企業経営者(今回の調査対象外)は「アメリカでも経営者はテレワークに反対」として、理由を次のように説明しています。

「アメリカの従業員は、テレワークだと間違いなく仕事をサボったり、手抜きをします。従業員をサボらせないように、できるだけオフィス勤務させたいわけです」

テレワークはどうなるのか?

 今後テレワークはどうなるのでしょうか。会社の方針を決めるのは経営者。その経営者が「テレワーク反対」と唱えている以上、これから雪崩を打ってオフィス勤務への回帰が進む可能性があります。

 ただ、ここで考えなくてはいけないのが、人材の獲得と維持です。いま日本では深刻な人材不足(人手不足ではなく)で、有望な新人や専門スキルを持った経験者を巡る人材獲得競争が激化しています。

 優秀な人材が会社選びで重視するのが、「自由度」。好きな仕事をしたい、好きな勤務地・環境で働きたい、好きなように働きたい、会社から一方的に決められたくない、と考えます。「テレワークでないと絶対ダメ」ということではなく、選択権があるかどうかを重視します。

 業務運営の合理性からオフィス勤務主体にするのは構いませんが、一般社員が嫌がっているのを無視して経営者の一存でオフィス勤務に戻すような会社は「自由度がない」ということで、優秀な人材から見放されます。優秀な人材を獲得できず、たまに獲得しても維持できず、長期的には会社の存続が危ぶまれます。

 たかがテレワーク、されどテレワーク。テレワークとどう向き合うかで、会社の将来が見えてくるのです。

(日沖 健)

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