神社参拝もメタバースを活用する時代、開発に半年、常設の設置は日本初

 EY Japanは、福岡市の鳥飼八幡宮を3Dで再現したメタバース神社を公開した。境内をメタバース空間に再現し、自由に歩き回ることができるほか、体験型のコンテンツを用意。多くの人に鳥飼八幡宮の興味を持ってもらうように工夫をしている。

端末を超え、場所を超えた参拝体験

 メタバース神社は、鳥飼八幡宮の拝殿や境内をバーチャルで再現したもの。参拝や境内の散策など、神社での体験ができる。スマホを使って、メタバース神社を訪れることができるため、VRグラスなどが不要で、デバイスに左右されず、手軽に参拝できるのが特徴だ。

鳥飼八幡宮 拝殿
拝殿

 EY Japan クライアントテクノロジーハブ アソシエートディレクターの朝倉康貴氏は、「参拝の作法を学べるコンテンツや、おみくじや結び紐のほか、ごみ拾いや着せ替え、福男・福女レースなど、無料で体験できるゲーム性があるコンテンツを数多く用意した。これらのコンテンツを体験することで、鳥飼八幡宮に関する知識を得ることができる豆知識カードも用意し、見て、体験して、知識を得ることができる。繰り返し、参拝に来てもらえることを目指している」という。

 画面上に表示されるステックのアイコンを操作してアバターを移動。拍手や礼、お賽銭を投げる動作を行えるアイコンが用意されている。

 境内を移動中に豆知識カードを引くと、鳥飼八幡宮に関する情報を得たり、お参りの際には2礼2拍手1礼をすることなど、参拝のルールを学んだりできる。

 豆知識カードは37種類が用意されており、獲得したカードはコレクションできるため、様々なカードを集める楽しさもある。

 なお、豆知識カードを登場させるためには、境内のごみを拾うなどのイベントをクリアする必要がある。「2礼2拍手1礼を守って参拝すると、豆知識カードが登場するなど、お参りの仕方を学びながら、集めることができる」という。

 また、水舎を訪れると手水を行うためのアイコンが表示され、手を清めることができる。水を使っている音も聞くことができる。社殿では、鈴を鳴らすことも可能だ。

宇宙の中に存在するメタバース神社、宮司や巫女になって楽しむ

 メタバース空間では、宮司や巫女の格好に着替えることができたり、境内にいる猫と追いかけっこをしたり、屋根に登ったり、まだ完成していない施設に入ることができるようになるなど、リアルではできない体験もできる。

EY Japan Chief Innovation Officerの松永達也氏は、「鳥飼八幡宮メタバース神社は、誰もがいつでも集い、思い思いに過ごせ、未来につながることを目指した。遠方に住んでいる人や、外出が困難な人、日本の文化に関心がある海外の人たちも、メタバース神社を訪問し、参拝したり、おみくじを引いたりといったことができる」とし、「テクノロジーを活用して、情報発信を行い、地域の伝統、文化を、未来につないでいくことを目的にしている。顧客体験を再設計するためにメタバースを活用しているおり、神社の体験、情報発信を変革することが狙いである」とした。

 開発には約半年間をかけており、メタバース空間に、常設で神社が設置されるのは、日本初の試みだという。

 「鳥飼八幡宮では、200年ぶりに本殿を建立した。これを含めて、境内全体で数1000枚の写真を撮影して、メタバース空間に再現。さらに、今後、建設する構想がある施設も、先行する形でメタバース空間に配置。宇宙のなかに存在するメタバース神社を実現した」という。

1800年の歴史を持つ、縁むすびの神様

 鳥飼八幡宮は、1800年の歴史を持つ神社で、縁むすびや願い事成就の神様として、地域の人々に長く愛されてきたという。

 宮司の山内圭司氏は「鳥飼八幡宮はリアルでの参拝者も増加しているが、多くの神社は厳しい状況にある。人口減少に加えて、氏子意識がなくなり、寄付や祈願の初穂料で成り立っている神社は、ひと握りに過ぎない。神社に受け継がれる祭りも縮小傾向にある。毎年、1000社の神社が無くなっている。時代に合わせて打ち手を考えないと、歴史を積むことはできない」と指摘する。

 「メタバース空間では、物理的な困難が無くなり、世界中のどこからでも鳥飼八幡宮に参拝でき、神様に手を合わせることができる。神社に縁がなく、興味を持たない人たちにも、足を運ぶきっかけになる。さらに、様々な人との交流や、新たなプロジェクト、ビジネスが生み出され、人と地域を活性化させたいという思いがある。ワクワクする鳥飼八幡宮を届けることができると期待している」とした。

 また、「メタバース神社はリアルの鳥飼八幡宮に足を運んでもらうきっかけづくりが目的である。現時点ではすべてを無料で提供し、お賽銭も投げるだけで課金はされない。だが、将来的には、お守り、お札、祈願を有料化することも考えたい。また、世界の人たちに向けて、日本の清貧性を伝え、神道や日本神話の世界観を伝えるツールに育てたい」とした。

 次のステップとして、英語表記を用意したり、季節ごとのイベントを開催したりといったことも検討している。宮司自らがメタバース空間に登場し、参拝者と交流するといったことも考えている。

 鳥飼八幡宮には、年間30万人が訪れているが、「メタバース神社では、30万人を超える参拝を期待している」と述べ、「リアルでも、バーチャルでも参拝することができる。全国の神社に、この取り組みをモデルケースにしてもらいたい」とした。

手軽なDX体験、神社の情報発信も再設計が求められる

 EYは、全世界150カ国以上で展開。約36万5000人の専門家が在籍し、アシュアランス(監査)、ストラテジー・アンド・トランザクション(M&A支援)、コンサルティング、 税務の4つのプロフェッショナルサービスを提供している。

 日本では、EY新日本監査法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティング、EY税理士法人、EY Japanの4社で構成。「EY Japanには、テクノロジーのチームがあり、クライアントテクノロジーハブを通じた活動を行っている。また、福岡を拠点に、EYのグローバルアセットを活用し、日本のDX案件を牽引するEYデジタルハブ福岡を、2021年10月に設立。東京でのコンサルティング案件に、福岡のエンジニアが参加。地元企業や自治体などと連携し、DX案件の構想から実現までを支援しているという。

 EYデジタルハブ福岡が、2022年秋から、鳥飼八幡宮と協業をスタート。「今回のメタバース神社は、神社として新しい挑戦をしたいということから始まった。とくに若い人たちに向けて情報発信のやり方を見直したい、神社を訪れる人たちの体験を再設計したいということからスタートしている」という。

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