規制緩和で新規参入するライバルが増える一方、不況でお客は減り、値下げ競争も激しい。そんなタクシー業界の苦境を打開しようと、福岡県で地域貢献や利用者ニーズに応える個性派タクシーが続々と登場している。価格ではなく独自のサービスで差をつけ、顧客獲得につなげたい考えだ。
◆ラーメン店はしご
福岡市タクシー協会は、観光需要掘り起こしを目的に2005年5月から「らーめんタクシー」を始めた。市内の協力ラーメン店約40カ所のうち利用客が好みの数店を選び、タクシーではしごする。2時間貸し切りで料金は小型車5000円(昼間)と通常より割安。ただし飲食代は別。協会によると、20~60代の県外客の利用が多いという。
5月下旬に友人と乗車した大分県中津市の会社員、中富由希子さん(28)は「地元の人しか知らない店に連れて行ってもらい、新たな発見があった」と博多ラーメン2杯を平らげ満足そうだった。
個人タクシーも負けていない。趣味のカラオケと機械いじりが高じ、業務用通信カラオケを搭載した車を走らせるのは、運転手歴33年の山崎敏夫さん(59)=福岡県糸島市。車内にマイクと消毒液を用意し、ドアには音漏れ防止の装備を施した。曲は無料、メーター1000円ほどの距離で1曲歌えるという。山崎さんは「(タッチパネル式選曲機の)デンモクを見せると驚かれる。カラオケタクシーは世界初だよ」とうれしそうに笑う。
◆妊婦さん歓迎
“優しさ”で勝負する業者も。大稲自動車(福岡市)は07年から、塾や習い事に通う子供が1人でも利用しやすい「こどもタクシー」を導入。大金を持たせなくても専用チケットで支払いができる。高木繁行常務は「子供の送迎を代わってほしいといった親の声に応えたかった」と話す。
同社はまた、出産を控えた人が定期健診などに利用できる「プレママタクシー」を08年から試行開始し、昨年5月に正式スタート。事前登録制だが、登録者は2年で延べ約850人に達したという。全車に防水シートを備え、出産時など緊急の場合は料金後払いでOK。陣痛がひどく病院に電話できない時は、同社が代わりに連絡してくれるなどの心配りがある。
◆各地で工夫競う
利用者からは「流産しかけた時に初めて利用させてもらった。無事出産できたのは運転手さんのおかげ」といった礼状が届くという。
運転手の井原重光さん(51)は「妊婦さんには近距離だとか車内を汚すとか考えず、気兼ねなく利用してほしい」と話している。
同様の動きは全国で拡大中。母子手帳の提示で1割引きしてくれたり(盛岡市の城北タクシー)、衛星利用測位システム(GPS)機能付き端末を使って徘徊(はいかい)する高齢者を捜してくれたり(京都市のキャビック)と、至れり尽くせり。
単なる移動手段にとどまらず、車内で過ごす楽しさや快適性などが、タクシー選びの決め手になりつつあるようだ。